現れた四人目


「う、うむ……っ! 無事時間通りについたぞっ!」


「頑張った」


 ラキにダブルデートっていうのを提案されてから二日後。

 俺とリズはラキに言われた通り、この前乗った大きな観覧車の周りにあるテーマパークに来てた。


 なんでも、水と人の触れ合いとか……そういう感じの場所らしい。

 今はとにかく水だけは一杯あるから、作りやすかったんだって。


 俺はラキが準備してくれた普通の格好。

 よく分からないけど、多分普通だと思う。

 前の式典の時と同じで、髪も上げてる。


 それで、リズの方は――。


「うぅ……に、似合っているだろうか? どこかおかしくないか?」


「かわいい」


「はうあっ!? そ、そうか……。ありがとう、なのだ……」


 リズの方は、いつもの黒だらけの服じゃなくて、白くてひらひらした服にピンクとか薄い青とか。とにかく全然違う格好だった。


 角も羽もつけてないし、髪の毛も普段のバーーンって感じじゃなくて、小さく纏まってた。


 俺はこういう格好のリズは初めて見たから、普通にかわいいなって思った。

 けど、リズの方は落ち着かない感じでそわそわしてた。

 角がないせいでいつもより小さく見えて、もじもじするともっと小さかった。


「黒は大魔王の正装なのだ……! だから、このような色合いの服は子供の頃から全く着たことがなくてだな……。お、落ち着かぬ……っ!」


「いいと思う。かわいい」


「ふおっ!? さ、さっきから聞いていれば、大魔王であるこの私に向かってかわいいかわいいと連呼しおって……! か、かなり恥ずかしいのだがっ!?」


「ごめん。言わない方が良かったかな……」


「ぬぎゃーーーー!? ち、ちが……っ! そういう訳では……! というかさっきからなんなのだ貴様ああああああっ!? なぜこの状況で動じぬ!? まさか貴様……意外とこういう状況に慣れているのではあるまいなっ!?」


「完全に初めて」


「ぐ、ぐぬっ……!(初めてだと……!? では、今のこの対応全てがカノアの素だというのか……っ!? まさか……ラキの危惧していた通り、やはりカノアは普通にしてれば〝モテ男〟の素質があるというのか……!? そ、そんな馬鹿な……っ! わ、私は一体どうすればいいのだ……っ!?)」


「ぼーー……」


 目の前で赤くなったり飛び跳ねたり、両腕をぶんぶん振り回したりするリズを見て、俺は普通に可愛いなって思ってた。リスとか、そういう小さい動物みたいで。


 なんか小声でもごもご言ってるのも聞こえたけど、凄い早口だったからよく分からなかった。とにかく、今日のリズはいつもと違ってなんか新鮮だった。


「し、しかしラキはいつになったら来るのだ!? まだ時間になった訳ではないが、普段ならば必ず私よりも先に来ているはずなのだが……」


「なにかあったのかな?」


「うーむ…………。むっ!? 見るのだカノア! どうやら来たようだぞ!」


 その時、リズが空に向かって指を差した。


 俺もつられてそっちの方を見たけど、そしたらそこにはぶわあああって周りの木とか草とかを押しのけて着陸しようとしてるオルアクアがいた。 


「うわ。オルアクアで来たんだ」


「うむうむ! ラキならばこの程度驚くことではない! おーい、ラキよ! 私とカノアの準備はばっちりだぞ! お前の方は大丈夫――」


 周りに凄い風を起こしながら着陸したオルアクア。

 青い体に太陽の光がピカピカに反射して、白い線の所と合わさって格好良かった。


 オルアクアがちゃんと着陸したのを見て、リズはにこにこ笑顔で手を振りながら走ってく。

 そうしたら、オルアクアの頭と体のところがパカーって開いて、中から――。


「よっ! 待たせたな二人共! ちょっと朝の現場作業が長引いちゃってさ!」


「お待たせしました。リズ様、カノアさん。ギリギリですが、なんとか待ち合わせの時間には間に合いましたね」


「ん?」


「あれ、リリーだ」


 オルアクアの乗るところから真っ先に出てきたのは、ラキじゃなくて汚れた作業着姿のリリーだった。

 リリーはぴょんってオルアクアから飛び降りると、まだ油で汚れたままの手袋で鼻先をこすった。


「しっかしお前ら……あれだけ仲が良い癖に、まだ付き合ってないどころか、友達以上恋人未満なんてへなちょこ状態だったのかよ? いかんなー! いつも偉そうなことを言ってる大魔王ともあろうものが、そんなカタツムリみたいなペースなんてなー?」


「き、貴様なぜそれを……! いや……今はそれよりも、なぜリリーがラキと一緒にいるのだ!? お前の家はここから反対側であろう!?」


「いいえ、リズ様。リリー様……いえ、リリーは今日のダブルデートのために忙しい中来てくれた僕の大切なパートナーです。100%相思相愛で、将来を固く誓い合った仲で、現在進行形でスーパーラブラブの恋人同士です」


「は?」


「そうなの?」


「う……っ。さ、さすがに……人前で堂々とそう言われると、私もちょっと恥ずかしいぜ……っ! ま、まあそういうわけだからさ……! 今日一日よろしくな、二人共っ!」


「はあああああああああああああああ!?」


「すごいびっくり」


 本当に心の底から、俺とリズはむちゃくちゃ驚いた。


 でもそんな風に驚く俺達の前。

 ラキとリリーはとっても自然な感じで、二人でぎゅって手を握った――。

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