第六章

二人は仲良し


「ククク……ッ! 今日も色々と買い込んでやったのだ……! サメ島で確保できぬ触媒や化合物に関しては、どうしても街で調達する必要があるからな……!」


「そうなんだ」


 今日も空は雲一つ無い青空。

 カモメとかウミネコはガンガンに鳴いてて、海からは涼しいけど湿った風が吹いてくる。


 あの式典から一週間。

 あれから俺はむちゃくちゃ有名になったけど、思ったほど皆から声をかけられるとか、そういうのはなかった。


(見て見て! 海の英雄のカノアさんよ! すらっとしてて素敵!)

(お話ししたいけど、きっと過酷なトレーニングの邪魔になっちゃう……)

(いつも大魔王と一緒だ……! きっと、カノアさん自ら大魔王が暴走しないように監視してるんだな……!)


 むぅ……。

 声はかけられないだけで、視線はむっちゃ感じる。


 リズが改造してくれたアクアリングのお陰で、ちょっとだけ意識を集中すると、俺に意識を向けてる人の声とかだけ聞こえるようになった。

 まだ練習中だから、前みたいに自分から声を聞きに行くのはやってないけど。


「大丈夫かカノア? 重くはないか? 自分で言うのもなんだが、調子に乗って少々買いすぎてしまったな……」


「ううん。だいじょうぶ」


「ふふ……もし疲れたらいつでも言うのだぞっ! 私の〝オート荷物運びマシン三号〟の中には、水やおやつも収納されているのだっ!」


 大きな買い物袋を両手と背中に担いで二人でてくてく歩いて行く。

 リズも手に荷物を持ってるけど、その隣で本当の山みたいな量の荷物を運んでるのは、リズが作った勝手に動くソリみたいな車だ。

 

 俺とリズが持ってるのは、そのソリに乗り切らなかった奴。


 今日はお昼前からリズと一緒に買い物に行ってた。

 機械とか石とかじゃなくて、塩とかよく分からない薬とか、そういうの。


 最近はリズの魔力も大分回復してきたみたいで、前みたいにサメ島にいったりするよりも、こういう風に街で買い物したりするのも増えた。


「んまぁぁああああああいっ! 素晴らしい美味しさだ! 褒めてつかわすぞ店主よ!」


「うまうま」


「おーおー! 誰かと思えば大魔王の嬢ちゃんに英雄のカノアさんじゃねぇか! 喜んでくれたみたいで嬉しいねぇ!」


「うむうむ……! このソースと白身魚の組み合わせはこの私も考えつかなかった……! 後で配下の者に〝大魔王お気に入り〟のエンブレムを届けさせる故、堂々と店先にぶら下げるがいいぞ!」


「ワハハハハ! そいつはありがたいねぇ! 俺の料理は人だろうが魔族だろうがみんな食わずにはいられねぇって自慢にならぁ! ゆっくりしてってくれよ!」


 とりあえず荷物は外に置いて、リズと一緒に早めにお昼を食べた。

 ここはリズが前々から行ってみたかったお店らしくて、出てきた料理はどれも本当に美味しかった。


 ただ――。


「ん……? カノアよ、口の横にソースがついておるぞ?」


「……? ここかな……」


「そっちではないのだ! 仕方ない、ならばこの私自ら拭いてやろうではないか……!」


「むぐぐ……」


「まったく……これではまるで子供ではないか。ふふ……」


「ごめん、ありがとう」


 こういうのとか――。


「見るのだカノア! あれは式典に合わせて完成した全長500mの超巨大観覧車ではないか! 実は私も乗りたかったが、ずっと忙しくて乗れなかったのだ! 早速二人で乗るのだっ!」


「でかい」


「クハハハハハハハハ……ッ! 大魔王と英雄は共に〝高い場所を好む〟のだ! フハハハハ……矮小なる人間共の街よ……! この大魔王リズリセ・ウル・ティオーがたっぷりと見下ろしてやろう……!」


「高すぎて超怖い」


 こういうのとか――。


「ふぅ……。今日は随分と遅くまで資材集めと解析に時間を要してしまったな……」


「もう真っ暗だ」


「な、なあカノアよ……。このような暗い中、今から魔王城出張所に帰るのもアレでソレだとは思わぬか?」


「俺が送るよ」


「あーあー! ち、違うのだ! そういうことではなくてだな……!? その……きょ、今日はこのままお前の家に泊まっていっても良いだろうか……? も、もちろん夕食はこの私が作ってやるぞっ!」


「え、凄い助かる」


「そ、そーだろうそーだろう!? ふ、フハハハハ……! そこまで喜ばれては仕方がない……っ! ならば今日はこの大魔王自ら、カノアの分も腕によりをかけて夕食を作ってやろうっ! そ、その後は色々お話ししながら寝るのだ! いいな!?」


「おっけー」


 こういうのとか。


 とにかくなんか、明らかにリズと一緒にいる時間が二倍か三倍か四倍か五倍くらいに増えた気がする。


 こんなに誰かと一緒にいたのって、生まれて初めてかもしれない。

 

 うまく言葉には出来なかったけど、リズと一緒にいる時間は楽しい。

 こんな時間の過ごし方もあるんだなって、全然知らなかった。


 ただ、リズは大魔王だし、前も聞いたけど忙しくないのかなって……。

 それは結構気になってた。


 まあ、そんな感じで俺は楽しく暮らしてたんだけど……。


「――ところで……お二人ってもうお付き合いされてますよね?」


「ぴぎゃっっ!? いっ……いきなり何を言い出すのだラキ!?」


「お付き合い?」


「え……っ!? リズ様のその反応……まさか、あれだけ四六時中一緒にいるのに、まだお付き合いされてなかったんですか!? 歴代最強の大魔王様ともあろうものが、ただの友達以上恋人未満なんですかっ!?」


「そ、そそそそそ、そうに決まっておろうがッ!? わ、私は清く正しい大魔王なのだぞ!? そこらの〝チョロ魔王〟と同じにして貰っては困るッッ!」


「チョロ魔王」


 ある日、いつもみたいに俺の部屋でラジオに向かって高笑いしてたリズに、たまたまついてきてたラキはそんなことを言い出した。


 お付き合いって、俺とリズが恋人同士になってるのかどうかってことかな……?

 確かに、そういうのは全然なかったと思う。


「そうなんですか……。正直、意外です。リズ様のことだから、カノアさんがしょぼしょぼしてるのをいいことに、とっくに手篭めにしているものと……」


「どーいうイメージだそれはッ!? というか貴様、今まで私のことをそんな肉食系大魔王だと思っておったのか!? ショックだぞッ!? 私の心が傷ついたっ!」


「申し訳ありませんリズ様。ですが、そういうことでしたら早急に何か手を打たなくてはいけませんね……」


「なにが〝そういうこと〟なのだなにが!? べ、別に……私は今のままで……」


「いけませんよリズ様。大体、カノアさんを世界中の人気者にしたのはリズ様じゃないですか。今はまだ世間のカノアさんへの勝手なイメージでこうして一緒にいられますけど、この状況もいつまで続くか……」


「ぐっ……!」


 ラキはなんか凄く難しそうな顔でうんうん考え始めた。

 俺には二人の話がさっぱり分からなかったけど、なんか大変そうだなって思いながら見てた。


「――では、カノアさんとリズ様、そして僕と〝僕のパートナー〟の四人で、どこかに遊びに行くというのはどうでしょう? いわゆる古来から続く伝統の決闘法……ダブルデートを提案します」


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