海神


『敵性物体確認――識別コード設定、完了』


『博士……っ! ――行こう、オルアクア! 僕達の役目を果たすんだ!』


『了解。最大稼働モード、レディ。戦闘継続可能時間――320秒』」


 ぐねぐね動く板みたいな翼をつけたオルアクアが、青い光になって飛んでいく。


 オルアクアの大きさと比べると、怪物の大きさは十倍くらいある。

 真っ暗な夜の海に、紫色に光る十字型の怪物は静かに浮いていた。


 けど、動かない怪物とは違って怪物の周りに沢山浮かんでる〝丸い目〟みたいな物はシャカシャカ虫みたいに忙しく動いてる。はっきり言わなくても超キモイ。


『……AA……V……o……an――ce……』


「へへ……っ! 出てきて早速で悪いけどな……! 今日の私は窮屈な式典でずっと退屈してたんだ! ストレス発散に付き合って貰うぜっ!」


「何者かは知らんが、我が魔族の同胞を傷つけた罪……! 地獄で償え――ッ!」


 足場も何もないのに平気で空を飛んでるリリーが前に出る。手に持った大きなハンマーが一瞬でもっと大きく……目の前の〝怪物よりも大きく〟なって、ぴかーーって金色に光った。


 そのリリーにちょっと遅れて、空飛ぶ円盤の上に乗ったリズの周りにもキラキラ光る色んな機械がいくつも出てくる。そしてそれはすぐにパズルみたいにガチャガチャ合体。


 前にサメ猫に撃った大砲とは比べものにならない大きさの、六つの大砲に一つの尖った剣が組み合わさったみたいな凄い武器がリズの周りをぐるっと囲むような感じで完成する。


「喰らって吹っ飛べ! 必殺……全生物絶滅聖女ハンマアアアアアアアアッ!」


「魔王城出張所に通信連絡! 絶滅兵器ロゴ・トゥム・ヘレの使用許可を申請――! 大魔王リズリセ・ウル・ティオーの名において即時承認ッ! エネルギーコア稼働率62%……! さあ……消え去るがいい――ッ!」


 光が広がる。

 リリーとリズの二人の力が、目の前の怪物めがけて叩き込まれる。


 それは周りの海も空も、空気も何もかも全部押し出して、綺麗さっぱり消し飛ばすくらいの大爆発を起こした。


 ――けど、ダメだ。

 今の俺には分かる。


 この化け物は、とんでもなく――!


「マジかよっ!?」


「――速い!?」


 爆発の光が収まるより前。リリーとリズの後ろに大きな影が出来る。

 それはさっきまで目の前にいたはずの怪物だった。


 怪物は信じられないくらいの速さで〝リズとリリーの攻撃を避けて〟、次の瞬間には二人の後ろにいたんだ。


 誰もその動きに反応できてない。

 まともに気づけたのもリズとリリーだけだった。


 怪物の目玉が一斉にリズを見る。

 紫の光がぎょろっとした目に灯って、その全部がリズを狙った。

 

 このままじゃ、リズが怪我をする。

 怪我だけじゃなくて……もっと酷いことになるかもしれない。


 だから、俺は――!


「それは、駄目だ……っ!」


 飛び出した。


 加速した水かきで空まで届く水の柱を爆発させた俺は、一瞬でリズと怪物の間に突っ込んだ。


 皆を乗せた船はパライソに戻してきた。


 中に乗ってる人を怪我させたらいけないから、いつもより慎重に港につけたけど、みんな大丈夫そうだった。


『……eNe……M……F……d………eR……cE……PTTT……PPPP……』


「やるんだ……俺が!」


「っ!?」


 俺は怪物が撃った凄い数のビームを、一つ残らず片手でバチンって握り潰す。

 辺りの水が、弾けたビームで蒸発して湯気になる。


 そして弾けた水と湯気の向こう。

 びっくりしてるリズの顔が見えた。


「……ちょっと、行ってくる」


「カノア――!?」


 一瞬。


 本当に一瞬だけ俺はリズと目を合わせて……すぐにまた速度を上げた。

 そしてそのまま、怪物の周りを数万回ぐるぐる回って水の渦に引きずり込む。


 分かる。


 この怪物がさっき撃ったビームは、サメ猫のビームと違って水の中だと遠くまで届かない。だからこいつを水の中に落とせば、お爺ちゃんの時と違って注意してる皆なら、もう撃たれたりはしない。


 そんなこと、いくら水泳EXを使ってる俺でも普段は絶対に分からないし、分かってもどういうことか理解できないのに……。


 なぜか今だけは、俺には何もかも……全部が分かった。


『supp――nTi……tH……GOD……F……SEA……engage……AAAAXXXXX……』


「やってやる……っ!」


 海に落とされた怪物が動く。


 いくつもの目をぎょろぎょろさせて、体を傾けることもなにもしないで、十字型の体を真っ直ぐに俺の方に向けて。そのままの姿勢で水の中を滑るみたいに凄いスピードで加速する。


 それを見た俺も、すぐに怪物の周りを絡みつくみたいにして泳いだ。

 俺の泳いだ後に光の粒が弾けて、キモイ怪物の周りをどんどん覆う。


『fo……r……ce……EexcCCC……』


 怪物は水の中でもキモイくらい速いけど、それでも俺よりはずっと遅い。


 ぐるぐる互いに泳いでる内に、段々怪物の目玉が俺を追えなくなって、あっちこっちデタラメなところを向くようになる。そして――。


『lu……on……BOBOBO……BBBBBBBB……!』


「……っ」


 光が一斉に、全部の方向に向かって撃たれた。

 それは、俺が絶対に怪物の近くを泳いでるっていう予測をして撃った攻撃だった。


 遠くまでは飛ばないけど、俺と怪物の周りの海を一瞬で全部蒸発させる。

 そういう攻撃だった。だから、俺は――!


「これで……!」


『……w……h……T……??????』


 吹っ飛ばした。


 何もかも全部。

 怪物がいるその場所の水と一緒に。


 本当に、正真正銘の手加減無し。

 ラキと一緒にずっと辛い早起きをして練習した、バタフライの動きで。


 水の中で叩き付けた俺の両腕から光がぱああああって弾けて、まるでその場所だけがズバッって削られたみたいに、海がずっと下の地面が見えるところまで真っ二つに割れる。


 そして、その割れた部分の海の水は一気に上に押し出されて……怪物をぐるぐるに飲み込んだまま凄いスピードで夜の星の向こう……〝お月様〟めがけてすっ飛んでいって……ドカンって、ぶつかった――。


 

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