今できること
「フハハハハハ! 他の者も大人しくしろ! 怪しい動きを僅かでも見せてみろ……既にこの船は、我がドラクル帝国が誇る〝大艦隊〟によって包囲されているのだ!」
「おー。グェンオッズじゃないか。なんだー。まさかお前もあの爺さんの仲間だったのかー?」
「黙れ小娘! 余が一体どれほどの
「その魔族の作った建物のお陰で生き延びてるってのに……。お前も皇帝なら、普段から軍事一本じゃなくて他の産業も育てておけよなー?」
『ヒョーーヒョッヒョ! ご覧なさい大魔王様! 人間とはかくも卑しく、目先のことしか見えぬ野蛮人! しかしご安心めされい。再び魔族と人が争うようになれば、このヘドロメールめがこのような輩は全て叩き潰してご覧にいれましょうぞ!』
「愚かな……っ! 例えそうだとしても、この大魔王リズリセ・ウル・ティオーに自ら滅びへと突き進む趣味はない! 今はそのような些細なことで争っている場合ではないと分からんのか!?」
声が聞こえてくる。
船の上で頑張ってる皆の声が。
船から海に飛び込んだ俺は、青く光る海の中を泳いでいく。
多分、普通の人が目を開けても辺りは真っ暗にしか見えないと思う。
けど水泳EXを発動している俺には、水の中全部がぶわーって光ってるように見えていた。まるで、気持ちいい日の光が射し込む浅瀬の海みたいに――。
『邪悪博士ヘドロメール! そしてドラクル帝国皇帝グェンオッズ! 今すぐ抵抗を止め、投降しなさい! 大人しく投降するのならば、情状酌量と申し開きの機会も与えますっ!』
博士の乗ってるドールを止めようと、前とは違って〝大きな翼〟みたいなのが生えたオルアクアが船の上にやってくる。うん、これも予定通り。
ラキはここで二人に本当の最後の警告をして、もし二人が言うことを聞かなかったら――。
『ホホッ! 流石四天王筆頭、塵殺のラキ……! だがそのような旧式のドールで、この魔族究極のドール……〝エアルオーズ〟に乗る我輩に勝てると思っているのかのう!? 我輩の〝ドール乗りとしての伝説〟を知らぬわけではなかろう……?』
「クックック! 我がドラクルが用意したのは大艦隊だけではないぞ! 余はこの時のために、そこにいる聖女の力も、大魔王の力も封じることが出来る〝魔封水晶〟を船内に持ち込んである! 今の貴様ら二人は、翼をもがれた鳥のようなものよッ!」
あ……なんか言うこと聞かなそうだな。
だったら……やっちゃっていいか。
「ほっほおおおおおう……? ならば見せて貰いたいものだな、そのエアルオーズが持つ究極の力とやらを。ほれほれ、どんなことが出来るのだ? んーー?」
『言われずとも見せてくれるわ! まずは貴様が信頼する四天王筆頭と、そのドールを血祭りに上げてのぅ!』
「ところでグェンオッズ。お前の自慢はその大艦隊やよくわからない水晶だけか? それじゃあちょっとつまらないなー?」
『ふん……小娘め、死に急ぐか! 元より聖女などという存在は邪魔以外の何者でもない……! ならば喰らえ、魔封水晶の力をおおおおッッ!』
お爺ちゃんと皇帝さんは、二人揃って大声を上げてリズとリリーに何かしようとした。でも――。
『な……!? なぜじゃ!? 突然エアルオーズの出力が下がって……! う、動かんじゃと……!? 動け……エアルオーズ! なぜ動かんっ!?』
「馬鹿な……! す、水晶は確かに効果を発揮しているはず……! なのになぜ貴様らからそれほどの力が!?」
「老いたな、ヘドロメール……。かつての貴様であれば、私の施していた〝細工〟にも余裕で気付いたであろうに……。既にエアルオーズの解析は数年前に終わらせてある。そして万が一の時のために、エアルオーズを外部から停止させる特殊なコマンドをメインOSとは別に仕込んでおいたのだ……!」
「んーー……? もしかして、もうなんかしてるのか? こっちは痛くも痒くもないし、ぴりっともしないんだけどな? もしかしてお前、皇帝のくせに怪しげな〝霊感商法〟にでもひっかかったんじゃないか?」
船の上。
お爺ちゃんのドールがびくんびくんして止まる。
皇帝さんも何かしたみたいだけど、リズもリリーも特に変わった所はないっぽい。
「ぐっ!? ふざけた小娘が……! ま、まだだ……! まだ余には帝国の全兵力を動員した大艦隊がある! ふ、フハハハハハ! 聞いて驚くがいい! 我が艦隊の数はその数五千隻! 総員二十万の大艦隊が――」
「――ふう。ただいま」
「おお! お帰りなのだカノアよ! そっちの方は上手くいったか?」
「うん。終わった」
ここまでやられてもまだ諦めてない皇帝さんの横に、俺は海からどかーんって飛び上がって戻ってくる。
俺を見たリズが凄く嬉しそうに笑って、たたたって走って近づいてきてくれた。
「な……!? 貴様は、先ほどのしょぼしょぼ男……!?」
「しょぼしょぼ男ではない! 海の英雄……カノア・アオだっ! そしてグェンオッズよ! 貴様の艦隊はすでにここにはおらんぞ! なぜならば、貴様が誇る大艦隊は全て――!」
「――全部、俺が皇帝さんの国に運んだ」
「は……? え……?????」
その言葉を聞いた皇帝さんは、目を丸くして甲板の手すりまで走って行く。
そこで頑張って何度も何度も遠くの海に目をこらすけど、そこにはただ真っ暗な海が広がってるだけだった。
「ば、馬鹿な……。そんな馬鹿な……。は、ははは……! あははは……そんな……!?」
「ハーーッハッハッハ! 私が丹精込めて作ったドキュメンタリー動画で説明してやったであろうっ! このカノアに水中で出来ないことなどないっ! たとえ何千隻の巨大な船だろうと、〝数秒で星の反対側まで運ぶ〟ことだって出来るのだっ!」
「うん」
「ば、ばけ……もの……っ。アバッ……」
そうして、俺達の目の前で皇帝さんはへなへなして倒れた。
かわいそうに……。
よっぽどショックだったんだな……。
「お疲れカノア! しかしお前って、ほんっとーに水の中だとヤバイんだな。もしかして私やリズより強いんじゃないか? 後で勝負しようぜ!」
『な、なんということじゃ……っ! 全て筒抜けだったというのか……我輩の計画は、全て……?』
『投降して下さい、ヘドロメール博士。貴方の先代への忠誠はリズ様もよくご理解されています。それに、まだ幼かったリズ様を大魔王に迷わず推薦し、後見人を申し出たのは他でもないヘドロメール博士だったじゃないですか……!』
『ぐ、ぐぐぅうううう……っ! なぜじゃ……なぜじゃああああ……! 我輩は、先代の……!』
船の上を飛ぶお爺ちゃんのドールを、ラキのオルアクアがゆっくり抱えた。
甲板の上では皇帝さんが泡を吹いて倒れてて……本当にリズの言う通り、誰も怪我したりしないまま事件は終わった……。
「見事であったぞ、カノア殿! 俺達の出番は全くなかったがな! ハッハッハ!」
「タナカさん」
「やはり貴殿はリズ様の見込んだ男だった……! 俺達が動くよりも遙かに確実で見事な働きぶり。立派だったぞ!」
「だな。ヘドロメールのジジイはともかく、あれだけの大艦隊を一瞬で無力化するってのはちょっとした賭けだった。ありがとヨォ!」
「本当なら、リズ様の作られた思念増幅装置で私の〝マインドジャック〟を拡大する予定だったんです。でも、私もちゃんと出来るか凄く不安で……っ」
ぼーっとその様子を見ていた俺に、タナカさんが声をかけてくれた。
タナカさんの後ろにはオディウムさんやナインさんもいた。
最初、俺はここまでやる予定じゃなかった。
ラキの言う通り、船から落ちたりした人を助けるだけのはずだった。
だけど……あの後で俺の方から何かもっと出来ることはないかなって皆と相談して、一番なんとかするのが難しい皇帝さんの軍隊を俺がやることになったんだ。
「ありがとうカノアっ! お前のお陰で本当に誰にも……一つたりとも被害は出なかった! やっぱりカノアは凄い奴なのだっ!」
「……良かった」
良かった。
皆に何もなくて。
皆が笑ってくれていて。
本当に良かった。
俺はちゃんと出来たのが嬉しくて、ほっとして。
やっと終わったんだって、そう思った。
でも、その時だった――。
『な……ん……じゃと……!?』
『え……っ!?』
「ヘドロメール!?」
オルアクアが抑えていたお爺ちゃんのドールが、海の中から突然出てきた光に撃たれたんだ――。
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