大魔王の理由


「出来ることなら、私も一緒に戦いたかった……。五歳とはいえ、私はその頃から〝ハチャメチャに強かった〟からな……。あの時、パパ様とママ様の言いつけを聞かずに私もついていっていれば……っ」


「当時、僕はまだ生まれたばかりで何も覚えていないんです。父と母の顔も、記録映像でしか見たことがありません。そして、ヘドロメール博士はその時、四天王筆頭として魔王城の〝留守を任されていた〟んです……。だから、当時の四天王で存命なのも博士だけで……」


「そうだったんだ……」


「しかも魔王城を襲った謎の軍勢は、パパ様の軍との衝突で一緒に跡形もなく消えてしまったのだ……。ヘドロメールのように、〝勇者〟や〝聖女〟の仕業ではと疑った者もいたにはいたが……。魔族の総力を挙げた調査で、戦場跡から人間の持つ力の痕跡は見つからなかった……なにより、その人間共自身がパパ様達が消え去ったことを今でもまったく知らないのだ……」


 短い時間だったけど、そうして聞いたリズとラキの話はもの凄く濃かった。

 俺が生きてきた中でも一番ってくらい濃い話だったかもしれない。


 いつもは冷静なラキも凄く悔しそうで。

 リズに至っては、角まで真っ白になってヘナヘナしてた……。


 俺はそんな二人が凄く辛そうで、見てられなかった。


「なあ、カノアよ……」


「うん」


「私は今でも皆が死んだなどとはこれっぽっちも思っておらん……! 今だって、暇さえあればパパ様とママ様を探し続けている……! だからもしカノアの力でパパ様やママ様の手がかりになりそうな物を見つけたら、なんでもいいから教えて欲しいのだっ!」


「わかった」


「そして約束してくれ……! 頼むから……頼むから、私の前から突然いなくなったりしないでくれ……っ! 私は、もう誰一人として消えて欲しくない……! 皆にも、カノアにも……! 全ての者がこれから先もずっと元気で……私と一緒にいて欲しいのだっ!」


 そう言って、リズは俺の手をぎゅって握ってきた。

 そのリズの目は凄く辛そうで……。

 言葉も視線も何もかも……全部が必死だった。 


 だから――。


「……約束する」


 俺は握られた手を少しだけ握り返して、そう言った――。


 

 ――――――

 ――――

 ――



『さあ皆様! この度の復興式典も夜の部に入り更なる盛り上がりを迎えます! ここからは皆々様のご歓談と共に、パライソ交響楽団と魔族が誇るロックバンドグループ〝キルデス・ヒューマニティ〟による人魔友好の音楽をお楽しみください!』


『『ワー! ワー!』』


 パチパチパチパチ――。


「バンド名が物騒すぎる……。全然友好しそうな名前じゃない……」


 時刻は夜。

 日はさっき沈んだばっかり。


 空は相変わらず晴れてるみたいで、夜空いっぱいに綺麗な星が光ってる。

 船の甲板には沢山の料理やお酒が並んだテーブルがいくつも置かれて、沢山の人が楽しそうにお話ししてた。


 リズやラキはパライソの偉い人と話すために今はいない。

 そうなると俺は怖くて誰とも話せないから、誰にも見つからないように一人でステージの裏で体育座りしてた。


 してたんだけど――。


「ぷふぉっ!? な、おまっ……あっははははははっ! な、なにやってんだよお前っ!? ぶはははははっ! ひー! お、お腹が……っ! びゃはははははっ!」


「うわ。見つかった」


 リズと入れ替わるみたいにしてステージ裏に来たリリーに見つかった。

 しかもむちゃくちゃ笑われた。なんで……。


「カノアみたいな大男が、こんなど派手なパーティーの裏で一人で体育座りとか面白すぎるだろ……っ!? ぶっ……! し、しかもなんだよその捨て猫みたいな顔はっ!? あひゃはははははっ! ひーーーー!」


「むぅ……」


 結局、リリーは俺の目の前でドレスのままゴロゴロ転がってしばらく笑ってた。

 そんなに面白かったのか……。


「あー笑った笑った! 久しぶりに死ぬかと思うほど笑っちゃったよ。笑わせてくれてありがとなカノア!」


「そうなんだ」


「そうそう、聖女なんてやってると面倒な用事ばっかりで眉間に皺が出来ちまう。外に出てみんなと家建てたり船作ってる方が楽しいしさー! 思いっきり笑うのだって大変なんだぜ?」


「それは大変そう」


 リリーはそのまま俺の横にどかって足を組んで座った。

 そしてそのままんーって両腕を上げて、猫みたいに伸びた。


「……さっきリズとお偉いさん方の相手を交代するときに聞いたぞ。邪悪博士の話を聞いたんだってな?」


「うん」


「ならリズの話も聞いたんだろ? あいつ……普段はあんなに偉そうなくせに、中身はいっつも一杯一杯で全然余裕がないからさ。カノアみたいなのが一緒にいるようになって、本当によかったなって思ってるんだ」


「……?」


 なんで俺がいて良かったんだろう?

 俺が昼まで寝てるからかな……?


 そんなわけないか……。


「リズはさ……。そういう理由で親がいなくなっちまって、そこからすげえ考えたんだろうな。またそんな奴らが攻めてきたらどうしよう。そうしたら今度こそ、人間も魔族もみんなやられちゃうんじゃないかって」


「うん」


「だからすぐに私に手紙をくれたのさ。人と魔族でケンカなんてしてる場合じゃない、皆で友達になって、力を合わせないとダメなんだって……。マジで立派だよなぁ……イライラして色んな物を手当たり次第壊してたその頃の私とは大違いだ」


「…………」


 そうか……。

 今のリリーの話で、ようやく俺にも分かったぞ……。


 ラキが言ってた言葉も。

 リズがずっと俺に言ってくれてた言葉も。


 初めて会ったときから、リズがずっと俺のことを信じてくれてたのも……。

 全部、お父さんやお母さんや、沢山の大切な人をなくしたからだったんだ……。


 俺が水泳EXで、リズの大切な人達をいっぱい助けたから。


 しかも……リズにとっての〝大切な人〟っていうのは、きっと俺なんかよりももっとずっと広くて、数え切れないほど多いんだ。たぶん……。


「ありがとなカノア……リズを助けてくれて。これからもあいつと仲良くしてやってくれよ! ゆるーく! だらだらでいいからさ!」


「うん……そうする」


 なんか今日は色んな人に、色んなことを頼まれる日だな。

 俺はそんなことを考えながら、しっかりとリリーに頷いた――。


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