その言葉の意味


『それはこちらの台詞だッ! 余とて何を好き好んで貴様のような薄汚い魔族と手を結ばなくてはならんのか……! 我が大願が成就した暁には、真っ先に貴様を血祭りに上げてくれようぞ!』


『ふん……せいぜい喚いておれ! 我輩は元より貴様のような小者など眼中にはないのじゃ。全ては先代大魔王様を亡き者とした人間共を必ずや捜し出し、我輩の手で〝先代の無念を晴らす〟ため……! 洪水で人間共の住処が限定されたのは、むしろ好都合よ……! ホーッホッホ!』


 むぅ……。

 なんか、この二人ってもの凄く仲が悪そうだな……。


 話してる内容は良くわらないけど……俺がちゃんと二人の話を覚えていれば、きっとリズやラキがどうすればいいか考えてくれると思う。


『まあいい……。元より海洋国家であった我がドラクル帝国が誇る大艦隊は、すでにパライソ周辺の海域に待機させてある……。事を為すまでは、大人しく貴様と足並みを合わせてやる……』


『ホーーホッホ! 良かろう、魔族究極の決戦兵器は我輩の意のままに改造済み! 後は式典の盛り上がりが最高潮に達する晩餐会で――――』


 ん……?


 なんか声が遠いな……。

 さっきまでちゃんと聞こえてたのに、いきなり聞こえなくなったぞ。


 ここからが大切なところみたいなのに……もっと、もうちょっと、こう――。


 大事なところでいきなり聞こえなくなった声を追いかけたくて、俺はもっともっと意識をアクアリングに集中させようとした。


 それは日の当たる浅い海から、暗い海の底に潜っていくような感じで――。


「――アっ! カノア!? いきなりどうしたのだ!?」


「…………あれ?」


 気がついたら……。

 俺の視界一杯に、いつもより真っ赤な目をしたリズがいた――。



 ――――――

 ――――

 ――



「ヘドロメールとグェンオッズがそんなことを……」


「うん。とにかく覚えてリズに伝えようって思ってたから、間違ってないと思う」


 リズの声で目を覚ました俺は、すぐにリズとラキに俺が聞いた声の内容を教えた。

 ラキの話だと、俺はあの後すぐに反応が無くなっちゃってたっぽい。


「アクアリングはまだテスト段階です。一瞬とはいえカノアさんが意識を失った原因究明と万が一のことを考えて、少なくともこの式典の間は、アクアリングを能動的に使用するのは控えた方が良さそうですね……」


 俺の脈拍とかを見たラキは、結構神妙な顔でそう言ってた。


 起きたときに俺が見たリズの顔……むちゃくちゃ心配してた。

 もしかしたら、少し泣いてたかもしれない……。


 あのリズの顔を思い浮かべるだけで、なんでか分からないけど息苦しい。


 リズにあんな顔をさせたくなくてやったのに。

 やっぱり俺は失敗ばっかりだな……。

 

「謝るのは私の方だぞ……! アクアリングの完成が嬉しすぎて、ついすぐにカノアに渡してしまった……! ラキの言う通り、とりあえず今日は身につけるだけにしておくのだっ!」


「ありがとう……俺も気をつける」


 そう言って、俺とリズは同じタイミングでぺこって頭を下げて謝った。


 うん……俺もリズみたいに、すぐに気持ちを切り替えられるようになろう。

 そうした方が、多分いい。たぶん……。


「けど……グェンオッズはともかくとして、ヘドロメール博士にそんなお考えがあったなんて……。僕も知りませんでした……」


「そんな考えって?」


「先代大魔王様……リズ様のお父上に当たるお方のことです。カノアさんが聞いた話が本当なら、ヘドロメール博士は、先代大魔王様が〝人間の手で害された〟と信じているということになります……」


「リズのお父さん……?」


「…………」


 ラキのその言葉に、俺はちょっと頑張って思い出す。

 リズと出会ってから今までの話を。


 でもどんなに頑張って思い出してみても、俺はリズから親の話を聞いたことはなかった。なかった……と思う。 


「パパ様は……! パパ様は死んでなどおらん……っ! パパ様もママ様も、きっと今もどこかで元気に生きている……っ! もちろん、ラキのパパ様もママ様もだっ!」


「リズ様……。でも、それは……」


「……?」


 それは、凄く突然の話だった。

 

 俺はリズがどうして大魔王になったのかとか、そういうのを何も知らない。

 知ってるのは、リズがまだ子供だった頃に大魔王になって、リリーと友達になろうとしたことくらいだったから……。

 

「すまない……。カノアにはまだ話していなかったな……。私のパパ様とママ様は、私が五歳になったばかりの頃……。突然行方不明になったのだ……」


「え……」


「正確には、〝突然〟ではありません……。記録では、リズ様のお父上である先代大魔王様は、奥方様や当時の大魔王親衛隊だった〝僕の両親も含む〟少数の精鋭と共に、魔王城に迫っていた〝正体不明の大軍勢〟を迎撃するべく出陣されました。そして……そのまま〝二度と戻らなかった〟のです……」


「……っ?」


「二度となどではない……っ! パパ様もママ様も、いつか必ず帰ってくるっ! 二人は……私と約束したのだ……っ! すぐに帰ってくるって……! だから……ちゃんと良い子で待っていなさいって……!」



〝そこに居ることを選んだのは貴方です。確かに、その場に居ても何もできなかったり、足手まといになったりすることもあるでしょうけど……。それでも……〟


〝リズ様は……それができなかったんですから……〟



 初めて聞いたその話。

 それを聞いた俺は、ラキが前に言っていたその言葉を思い出していた――。


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