大魔王探検隊
「ハーーッハッハッハ! やはり私の計算通り! 西の山脈は完全に水没してはいなかったのだっ! これならば巨大な島として、ゆくゆくは植民を検討することも出来よう!」
「すごい」
パライソの街を出発してから二時間くらい。
リズをゆっくり引っ張りながら泳いだ先には、確かに大きな島があった。
島に打ち寄せる波は穏やかで、ちゃんとなだらかに浅瀬が海の奥に続いてる。
パライソだと街から一歩でも離れるといきなり水が深いから、ここの方がよっぽど普通の島みたいだった。
「うむうむっ! よしカノアよ! 早速島の探検と調査を行うとしよう!」
「俺は何をすればいい?」
「今回は素材の回収よりも地質の確認が目的だ。私は調査を進めるから、カノアは周囲に危険な動物やモンスター共がいないか見張りを頼む! もしかしたら〝ノッシー〟だの、〝チュパチュパボンボリアンデスワーム〟だのといった〝危険なUMA共〟がどこぞに潜んでいるやもしれん……! 私は子供の頃にテレビで見たのだ……!」
「なにそれ超怖い」
「クックック……! なぁに、そう恐れることはない! なんと言っても貴様にはこの私がついているのだからな! さあ……大魔王探検隊出発だっ!」
リズは振り上げた腕をぶんぶんと振り回すと、多分元々は山の上の方だったはずの島をズンズン進んでいった――。
――――――
――――
――
「なるほど……鉱石の埋蔵率は悪くない。銅と鉄が少々……石英も豊富だ。ここを基点にして地下へと掘り進めば、より多彩な素材を回収することも出来そうだな……」
「ぼー……きょろきょろ……ぼー……」
「うむ……ここに関してはこれくらいで良かろう。次の場所に向かうとするか!」
「ん、わかった」
島についてからさらに一時間くらい。
リズはあっちこっちの地面に手に持った〝光る板〟を向けては、うむうむと頷いて満足そうに笑っていた。
俺はというと、ただその横で立ってたり、目についた珍しい草とか花とかをひっこぬいてリズに渡したり。特に何かしたりはしてなかった。
でも、見張りはちゃんとしないと……。
リズから頼まれた大事な仕事だから。
リズの後ろを歩きながら、俺はできる限り背筋を伸ばして辺りに気を配る。
こういうのはあんまり慣れてないんだけど……リズが俺を信用してくれてるなら、できる限りちゃんとしたかった。
そして――。
「ん……? なんだこれ……?」
「どうしたのだ? 何か見つけたのか?」
「ちょっと見て欲しい。俺にはさっぱり分からない」
「どれどれ?」
それは、リズが何気なく通り過ぎた〝大きなくぼみ〟……。
後から歩いていた俺は、そのくぼみの形が変なことに気付いて立ち止まった。
「これなんだけど……」
「むむむ……っ! 確かに、地面がこのように幾何学的な形でへこむとは妙だな……? 丸くて巨大な中心部に、放射状に広がる先端部……。それにこれは……肉球か……? ぱっと見〝動物の足跡〟のように見えるが…………って、まさかっ!?」
「リズ?」
「な、なんということだ……っ! 見ろ、カノア! これは足跡だ! その証拠に、同じ形のくぼみが海に向かって左右交互に続いているではないかっ!」
「ほんとだ……」
足跡……。
これって足跡なのか。
だとしたら本当に大きい。
片足だけで余裕で俺より大きい。
つまり、そんな大きな動物やモンスターがここにいるのか……。
なぜか目を輝かせて大興奮するリズと違って、俺はキョロキョロと辺りを見回す。
だってそんな大きな生き物とか……いくらなんでも怖すぎる。
「しかもだ! この巨大さと猫や犬に似た足の形! 間違いない、これこそ伝説のUMA……チュパチュパボンボリアンデスワームの足跡っ!」
「ええ……? 〝ワーム〟って、虫とかにつく名前なんじゃ……」
「いーや! 私の見た記憶が確かならば、チュパチュパボンボリアンデスワームは猫のような巨大な体に猫っぽい手足が生え、顔は猫、尾はモフモフの猫しっぽという恐ろしい姿をしているらしい……! 完全に一致だ!」
「それもうただの大きな猫なんじゃ」
「大発見だぞカノア! 我々大魔王探検隊は、ついに幻のUMAの手がかりを見つけたのだ! 素材探しは一旦後回しにして、チュパチュパボンボリアンデスワームの捜索を――!」
ぼーっと立つ俺と、興奮してくるくるその場で回りまくるリズ。
リズはその〝チュパチュパなんとか〟を探す気満々で……逃げるつもりなんて全然なさそうだった。
困ったな……そんな大きな猫とか怖すぎるんだけど。
というか、普通の猫とケンカするのも怖いし。爪とか。
そして、俺がそんなことを思っていると――。
『ギャオオオオオオオオン!』
「うわ……っ!?」
「この鳴き声は……!? まさか、チュパチュパボンボリアンデスワームか!?」
瞬間、辺り全部が震えるような大きな叫び声が響いた。
そしてすぐに音のする方を向いた俺達の目に、本当にたった今海から島に上がろうとする大きな影が飛び込んでくる。
海水に濡れた灰色の肌に、鋭い牙が並ぶ大きな口と、どこを見てるのかよく分からない死んだ魚みたいな目が二つ。
それは、どこからどう見ても――。
「サメ」
「サメだぁああああああああああ!? 馬鹿な……! チュパチュパボンボリアンデスワームはどこにいったのだっ!? わ、私の猫さんはどこ……!?」
いきなり海から陸に上がってきたその怪物は、猫っぽい手足の生えた大きなサメだった。
むぅ……。
どうしよう、確かにこれなら大きな猫の方が可愛かったな。
っていうか大きいしキモイし本当に無理。
むっちゃ怖い。
のっしのっしとこっちに歩いてくる巨大サメを見ながら、俺はリズと一緒になってあわわと震えた――。
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