第3話 すごい人

 彼は弁護士の小笠原さん(仮名)。弁護士事務所のホームページを見たら、写真入りでプロフィールが出ていた。某法律事務所の代表弁護士。大学は〇〇大学。俺よりいい大学だ。そして、アメリカの弁護士資格も持っている超絶エリート。年収は不明。でも、3000万以上はあるだろう。そんな金持ちがなぜ公園でナンパなんかしてたんだろう。金に物を言わせれば、モデルでも売れないタレントでもホテルに呼べると思うのだが。モデルなんて売れてなかったら全然食えないだろうし、ゲイの人も多いと聞く。


 そんな人がなぜ公園で50がらみのおじさんをナンパしてるんだろうか。


 俺は仕事帰りに待ち合わせをした。小笠原さんのオフィスの近くにある、超高いホテルの最上階のレストランで食事することになった。どうせ経費で落ちるんだろうから、相手が払ってくれるんだろう。


 俺はわざと着古したワイシャツを着て行った。カバンも3代くらい前の古いのをクローゼットから引っ張り出してきた。靴も30代の頃の古いやつ。中小のサラリーマンに見せかけるためだ。実際の中小のサラリーマンがそんな恰好をしているわけはないのだが、俺が上場会社のグループ企業の管理職だということを隠すためだった。

 

 今回行った所は、俺も初めてで、過去一高い店だった。ステーキの店だったけど、やっぱり落ち着かない。俺は高級なレストランが苦手だからだ。食い物に金をかけるのはもったいない気がしてしまう。

 しかも、そんなみすぼらしい格好をして行って、1日気分が沈んでいた。やっぱり俺は身に着けている服装や小物で、気分が上がったり下がったりしてしまう。

「中小企業に勤めてる方には見えませんね」

「実は・・・前の会社をリストラされてしまって」

 俺は嘘の経歴をでっちあげる。

「そうでしたか・・・人生何があるかわかりませんね」

「はい。それで、妻子にも逃げられてしまって・・・」

「そうでしたか・・・」

 俺は何のためかわからないが、延々と嘘をついていた。

 嘘をついて相手の反応を見ていた。彼はいい人で、俺がそんな惨めな境遇でも見下したりはしていなかった。よっぽどタイプなんだろうか。


「ご出身は?」

「〇〇県です」

 これは嘘をつけないから正直に答えた。

「へえ。全然訛りがありませんね」

「大学からこっちなので・・・」

 そうやって俺は嘘の学歴と職歴を話し続けた。

「ああ、やっぱりいい大学出てる感じがしましたよ」

 彼に認められると、なぜか嬉しかった。


 2人で喋っていたらあっという間に2時間くらい経っていた。小笠原さんはカウンセラーみたいに聞き上手で、俺はペラペラと喋っていた。包容力のある大人の男。彼にだったら抱かれてもいいような気がして来た。


 彼は隣に座っている俺の手を握って来た。


「泊まる時間ありますか?」

「いえ、、、明日仕事なんで」

「じゃあ、公園でちょっと話しませんか?」

「はい」

 俺は承諾した。

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