大人になって

王生らてぃ

本文

「あれ……委員長じゃない?」

「っ……」



 ――戸惑った彼女を顔を見て、私は少し、不安になった。



 明るい茶色に染めた、背中まで垂れたウェーブのかかった髪。眼鏡越しじゃない、コンタクトの入った瞳。明るいコーラルピンクに塗られた爪。胸元の大きく開いた服、ふんわりしたスカート、高いヒールのミュール。丁寧に整えられた白い肌と、ほっそりしたウエストと脚。派手過ぎず、でも決して薄すぎない、絶妙なメイク。



 高校生のころの委員長とは、全然違う。

 真っ黒な髪と、校則通りの制服。メイクもネイルも、一切しなかった、黒ぶちの分厚い眼鏡越しの陰気な瞳。

 それらは見る影もなくなっていた。

 でも――



「委員長だよね? あたしのこと、覚えてる? ほら、高三のころ、同じクラスだった……」

「人違い、じゃないですか」



 バッグをぎゅっと握りながら、彼女は震える声で答えて、そのまま歩き出そうとする。



「やっぱり、委員長じゃん」

「……」

「その、目の逸らし方とか。あたしと話すとき、鞄とか服のすそ、そうやってぎゅって握るのとか。変わってないね」



 見た目は派手なのに、全然変わってない。

 しぐさや表情。

 急に青白くなって、わなわなと震えだす委員長を見て、私はたまらなく懐かしい気持ちになる。学生の頃の思い出が、蘇ってくる。



「なに……何か用なの」

「用って、別にそんなんじゃないけど。たまたま見かけたから声かけただけじゃん? 高校のころの同級生に。でも、ずいぶん――オシャレになったじゃん。あんなに真面目ちゃんだったのにさ」

「用がないなら……もういい?」

「なんでそんなに怖がってんの……?」



 そりゃ、私は高校のころ、そんなにいい生徒じゃなかった。

 制服は改造してたし、当時から校則違反のメイクやネイルもしまくってた。髪も染めてパーマもかけてたし、同じように気の合う友だちとつるんでたりした。

 でも、委員長のこと、いじめてたりしたわけじゃない。むしろ話したことだってなかったくらいだ。だって、委員長の名前だって、とっさには思い出せないくらいなのに……



「てか、そのネイルとか、かわいいじゃん。それに、めっちゃ指もキレーだしさ。どこのやつ使ってんの?」

「……、」

「ねー。なんでさっきからそんなおどおどしてんの……? あたし、委員長になんかした?」

「離して……」

「え?」

「離して。お願い……」



 そうして手を離した瞬間、委員長はきっと、私のことをにらみつけた。



「きょ、今日会ったことは……誰にも、言わないで。お願い……します」

「え、あ、うん」



 そのまま委員長は、人混みの中へと駆け足で消えていった。



 ……なんだよ、せっかく久しぶりに再会したっていうのに、冷たい人だ。

 確かに私は素行はよくなかったかもしれないけど、そんなにビビらなくたっていいのに。むしろ、きれいになった委員長は……結構イケてると思った。もったいない。学生時代からおしゃれしてたら、よかったのに。

 そしたら、もっと……

 もっと仲良くなれてたかもしれないのにな。

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大人になって 王生らてぃ @lathi_ikurumi

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