第9話 優が出所して半年が過ぎた

 出所してから半年が過ぎた。その間何度も統子から電話やメールが入った。連絡して下さい。の催促だった。そう俺だけが知っている統子の携帯電話番号がある、いわばホットラインだ。

 出来ればおめでとうと言ってやりたかった。しかし今の俺は前科者そんな奴は有名歌手の側をうろついたらどうなる。そう思って連絡をしなかった。

 そんなある日ジムの会長から話があると言われた。

 「会長改まってどうしたんですか」

 「ほら先日言っていた秋山をどう思う」

 「ええ期待していますよ。今年中に日本チャンピョンに挑戦させますよ」

 「そういう若いのが育ったのもお前の教え方が上手いからだ。ところが俺と来たら 最近メッキリ体力が落ちてな。若い奴を教える体力はないし持病も悪化し、そろそろ引き際だと思っている」

「会長、どうしてそんな弱気になって」

「それだけじゃない。将来性のあるボクサーが入っても貧乏ジムで埋もれさせる訳にはいかん」

「まさかジムを閉めるって言うんじゃないでしょうね」

「悪いが気力も資金もないんだ」


 それから一週間後、会長は麻野七星に電話を入れた。せっかく預かった堀田を雇えなくなると。驚いた麻野七星は電話ではなくジムへお忍びでやって来た。

更に一週間後、会長が俺に話があると言う。ジムを閉めると言っているのにそれ以上悪い話があるのかと思った。

「堀田、大変なことになったよ」

「会長、今度はなんですか、まさか癌だとか言い出すんじゃないでしょうね」

「バカ、いい話だ。これまで内緒にしていたがお前がうちのジムに入れたのも、ある人が保証人になってくれたからだ。しかも歌手生命を賭けて保証すると言ったんだぞ。俺は度肝を抜かされたよ。あんな有名人に」


つづく  次回最終話

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