第8話 グッマイラブ
会場の片隅で聴いていた俺はI sing for youの歌を聴くたびに心が熱く燃え上がり涙が頬を濡らした。統子の歌声は間違いなく訴えていた。私の側を離れないでと。それは俺にとっても胸が引き裂かれる思いだ。『ありがとう統子』そう呟き、俺は最後の曲I sing for youを聴き終えると会場の外に出た。いつの間に雪は止み、真冬の夜空には満天の星が輝いていた。俺は犯罪者だ。もうボクシングは出来ない。
総てが夢で終わったが、でもいい統子はあの忌まわしい事件から立ち直り大スターとなったのだから。
たが、こんな俺でもボクシングのコーチとして雇ってくれる云うジムがあった。俺もまだ運があるのかと思っていたが、後に知った事だが統子は沢山のボクシングジムに掛け合い、人物は私が歌手生命を掛けて保証するからコーチの道を与えてやって欲しいと頼まれたと言う。ジムの会長もその時は驚いたそうだ。
麻野七星と言ったらそれは有名人だ。それがマネージャーと一緒に人目を忍び、会長に哀願したらしい。『歌手生命を掛けて保証する』には感動したそうだ。なんとか無職で、さ迷う事にならないことに感謝する。せめてこの手で世界チャンピョンを育てる夢を見よう。そうだ生きている限り夢と希望はついてくるものだ。
『まぁ若い時に散々悪いことをした償いと思えば、これも俺の人生さ』
夜空を見上げたら、北斗七星が今夜はくっきりと見える。
まるで歌手、麻野七星が星となって俺に微笑みかけるような思いだ。
『あいつ等は屑だった。だが俺も似たような屑だが。星屑の街か……笑わせるぜ』
犯罪歴のある俺は歌手麻野七星に相応しくない。消えよう星屑のように……。
そんな俺を退き止めるように、統子いや歌手麻野七星の歌声が聴こえて来るようだ。
『I sing for you』
♪ あなたに逢えたから 私は此処にいる
あの日の誓いは いま実ろうとしている
忘れていないわ 約束した日ことを
二人の夢を叶えよう 二人はグッマイラブ
あなたの為に唄うの グッマイラブの歌を
I sing for you I sing for you
♪ あなたに支えられて 私は此処にいる
あなたと私の夢は 今こうして実った
大勢の人に見守られ このステージに立つ
あなたの夢は私の夢 二人はグッマイラブ
あなたの為に唄うの グッマイラブの歌を
I sing for you I sing for you
統子が作詞した歌詞の中に(忘れていないわ、約束した日ことを)とある。
嗚呼……忘れないよ。少女が夢を叶えた。ワルの俺も夢を叶えたさ。
君が叶えた夢は俺の夢でもあったのだから、これ以上の満足はないさ。
でも俺はグッバイラブさ。いつも何処かで、君を見ている……
つづく
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