第6話 懲役三年

 重症を負った三人は事情聴取どころではない。そのまま救急車で搬送された。だがいずれ事件の内容は暴かれるだろう。勿論、俺と統子は警察署に連れて行かれた。

この事件が七年前に遡っている事が明るみ出た。俺は事情聴取されながら統子の秘密は絶対に守ってくれと頼み込んだ。そうだ統子はなんの罪もない。それ処が大きな傷を背負った被害者なのだ。統子も隠そうとしなかった。私の為に優は傷害事件を起こしたのだから。少しでも罪を軽くしなくてはならない。最初の取り調べが始まった。

「えーと君は堀田優でいいんだね。プロボクサーのようだな。しかも東洋チャンピョンらしいね」

「はい、あの彼女はどうなるのでしょうか」

「あのさぁ人の心配より自分の心配をしたらどうかね。ボクサーが人を殴ればどうなるか知っているだろう」

「勿論分かっています。プロボクサーですから。しかし他に方法がなかったんです。提出したビデオテープを見てくれましたか」

「ああ確かに恐喝されているね。彼等は二度目らしいね、分かるよ、かなり悪質だ」

「彼女は高校時代の同級生です。あの時の彼女は深く傷つき自殺しかねない状態でした。僕は奴等を探し出す二度と彼女には近寄るなと一筆書かせてすべて終わったと思ったのですが」

「確かに酷い連中だ。その点は君と彼女に同情するよ。しかしね、一人は片目が失明。他の二人は重症だぞ。まぁ死ななくて良かったが、やり過ぎだろう」

「申し訳ありません。つい頭に血が登って、これで彼女の歌手生命が終わったらどうしょうかと」

「確かにそれは言えるが、だが君はボクサー生命が絶たれるぞ」

警察はこの事件を温情的に見てくたれが、それだけでは済まなかった。


 警察は分ってくれた。その秘密は全て伏されたが事件に巻き込まれた事は隠せなかった。こうなると音楽プロダクションにも隠し通せなくなった。ただ悪質なファンに襲われた所を、助けてくれた人物が救うという建前で事は進んだ。

 統子は事務所に頼み最高の弁護団を揃えて俺の為に尽くしてくれた。勿論、事務所だってこれだけの歌手を失う訳には行かない。今で七星の稼ぎで事務所はもっているようなものだ。事務所側を統子の願いを快諾した。裁判でも俺は統子の強姦事件は口を閉ざした。頑として統子を法廷に証人として呼ぶ事を拒んだ。しかし何かを隠して居ることを検察側はすでに調べ終えているようだ。

仕方なく俺は最後の願いを裁判所に託した。裁判では事件(強姦)のことを考慮し願いを聞き入れてくれた。


 有名人の過去を暴き、しかも自分達が犯した強姦なのに更に強請ったとなれば悪質過ぎる。俺が撮ったビデオが大きな証拠となった。その点では優位に動いた。だが問題は統子の置かれた立場だった。

 普通の人でも世間に晒されたら一生の傷跡が残る。しかも今は超売れっ子歌手とあれば一瞬にして全てが終わる。因って統子が強請られた理由である強姦事件が重要な要素となる為、非公開裁判が認められた。しかしあの三人組の一人は片目が失明、あと二人は歩行に障害が残った。悪質な犯罪に情状酌量の余地はあるが、三人とも大きな後遺症が残る事が本裁判の判決を左右した。普通なら執行猶予が付くところだが、過剰防衛とプロボクサーの拳は凶器とみなされた。但し相手もナイフを持っており相殺して懲役三年の実刑が決まった。凶器を持っていなければ懲役六年以上になったかも知れない。


つづく


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