第5話 堀田優、過剰防衛で逮捕される

 もう高校生でもない立派な大人だが、普通の大人ではない超売れっ子の清純派歌手である。それが奴等の強請りで崩れ去ろうとしている。苦労した掴んだ夢が砕け散る恐怖が襲って来た。俺は茂み隠れてビデオカメラで撮り続けた。恐喝の証拠を掴む為に飛び足すのを耐えていた。震いながら統子もそれなりの演技をしている。

「分かっているな。警察に言ったらバラスからな。で、金は持って来たか?」

 暗がりだが公園の防犯灯の薄明かりで、なんとか彼等の顔がビデオに写っている。勿論音声も。俺は証拠となるビデオを撮り終え、そのビデオをベンチの下に隠してから歩み寄って行く。奴等が統子を取り囲み押さえつけようとした時だ。俺は奴等に声を掛けた。

「オイ!! てめえら、あれほど言ったのに忘れたのか」

「なっなんだ! おめぇはマネージャーか。俺達はちょっと口止め料が欲しいだけだ。別に取って喰おうって訳じゃないぜ。怪我しないうちに消えな」

「黙れ、この野郎! 俺を忘れたのか」

「なんだって? ……あっ! あの時のおめぇか。だけどよ〜もう時効だぜ。時効」

「何が時効だ、今お前達のやっている事は恐喝じゃないか新たな犯罪だ」

 俺は完全に頭に血がのぼっていた。いきなり一人に襲い掛かった。だが奴等も用意周到にナイフを隠し持っていた。


 俺は不用意にも突き出されたナイフで右脇腹のジャケットが破けた。それでも俺は今や東洋チャンピョン。油断さえしなければナイフなんか怖くない。奴等の動きは全て見切れる。俺は頭に血がのぼったが冷静さは失っていない。ボクシングで鍛えた腕で、あっという間に奴等を半殺しにしてしまった。奴等にとって俺がプロボクサーである事を知らなかったのが不運だった。俺は倒れた三人を容赦なく蹴りつけた。あの時以上に。三人とも複雑骨折している筈だ。奴等はなんとか命は助かったが、三人ともかなりの重傷を負った。当然長期入院だろう。多分、退院しても後遺症が残るだろう。二度と手が出せないほど半殺しにしてやったのだから。

「いいかお前等、お前達が恐喝している証拠をビデオにキッチリ収めて置いたぜ。警察に捕まればお前達の事だから余罪がいっぱい出てくるだろうよ。覚悟して置くたんだな」

 ワルの時代の俺が顔を出したようだ。そこには極悪非道と自負していた当時の俺が蘇っていた。だがこれも統子の為。出来るものなら、これを最後にしたい。


  近くで見守っていた統子が、心配そうに駆け寄ってくる。

 「優ありがとう。でも警察に知れたらどうなるの? 私の為に貴方が……」

 「良いって。これで統子が救われるなら刑務所に入ったって平気さ」

 「バカ! そんなんじゃ私、喜べないわ。歌手を辞めてもいい。覚悟しているの」

 「よせやい。俺はお前が輝いているのを見たいんだ。カッコをつけさせろよ」

  その時だった。バタバタと数人の警察官が血相を変えて走って来た。 騒ぎを聞きつけた誰かが警察を呼んだようだ。俺は現行犯で緊急逮捕された。統子を見た警官はハッとして統子の顔をマジマジと眺めた。

 「……もしかして貴女は歌手の麻野七星さんでは?」

 俺は不味いと思った。いくら警官でも過去をほじくり返させたくなかった。

 「違う! この人は俺の友人だ。別人だ」

 だが誤魔化せなかった。あまりにも有名過ぎて隠しようがなかった。統子は俺を制して言った。

 「いいのよ。こうなったら命がけで優の弁護をするわ」


 つづく


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