第3話 二人の夢は叶えられた。
あれから高校を卒業し社会に出て二年が過ぎた。俺は二十歳になってやっとプロボサーのライセンスを取ることが出来た。
今では体も締まり筋肉質で普段の体重が六十八キロあるが、フェザー級では五十六キロ前後だ。ボクサーは減量との戦いと聞くが、やはり十二キロ落とすのは大変だった。かなり遅すぎたが、やっとデビュー戦が決まった。
生活が優先する為、働く方に時間とられたが夢の一歩が始まった。あんなに喧嘩では無敵だった俺もプロの道は厳しく半年間は四回戦ボーイが続いた。一方の統子も一向に目が出ずベテラン歌手のサブマネジャーとして働いている。
つまり身の回りの世話と使い走りのようなものだ。しかし都会生活に慣れて来て、芸能人らしい雰囲気が漂い始めている。
元々美貌の持ち主であり小顔で目鼻がくっきりとしている。美少女から美女へと変身して行く統子が眩しい。
性格も良いし、その容姿端麗と磨かれた歌唱力がある。きっと近い内に成功するだろう。売れ出したら一気に人気に火がつくのではないかと俺は思っている。だが今は二人とも無名。互いにもがきながらも決して夢は諦めないと頑張った。
互いの夢の為に、俺達のデートは月に一回程度しかないが幸せだった。やがて一年が過ぎ俺は急に運が向いて来た。これまでの生活はアルバイトで繋いできた。衣食住合わせて十五万ギリギリの生活だが夢があるから苦にならない。因みにC級ボクサーのファイトマネーは五万-十万、B級ボクサーで十万―三十万、A級ボクサーで十五万-五十万。
二十一歳で新人王のチャンスがやって来た。そして俺は悲願の東日本新人王に輝き、勢いに乗り更に半年後に俺はついにフェザー級、日本チャンピオンになった。試合を観戦に来ていた統子はさっそく祝福してくれた。
「優、おめでとう。私も頑張らないと。テレビに出られるような歌手になるんだ」
「歌のレッスンしているのか」
「うん、先生は厳しいけど、その分お前は歌唱力があるから頑張れっと言ってくれるの」
「ああ、統子なら大丈夫だよ。俺だって日本チャンピョンになれたんだ。次は統子の番だよ」
「うん。その頃は優も東洋チャンピョン、その次は念願の世界チャンピョンかも」
「ハッハハ頑張るよ。ただボクシングの世界も厳しく世界チャンピョンになり三度ほど防衛してやっと飯を食って行けるボクサーとして認められるんだ」
「うん必ず世界チャンピョンになってね。わたしも頑張ろう。そして二人で有名になって……そして」
「そして、なんだよ?」
「もう! いいじゃない。答えは二人とも一流になった時にね」
統子は照れくさそうに笑った。統子はそしてと言った。そしての先には何があるのだろう?
やがて俺は二十二歳で東洋チャンピョンになった。それでもファイトマネーだけじゃ食っていけない。でも世界を狙える男として、ボクシング専門雑誌にも載るようになり少しは有名人になって来た。但しボクシング界は東洋チャンピョン程度では熱心なボクンシングファン以外は知られる事もない。世界チャンピョンになってやっと名が知られる程度だ。初防衛で敗れればまた忘れ去られる厳しい世界だ。
一方の統子もやっと念願のデビュー曲が決まった。それが(I sing for you)だ。歌詞は統子が書いた。統子はこっそり教えてくれた。俺をイメージして書いた歌詞だと。勿論作詞家にアドバイスを受けたが面白い歌詞だと褒めていたそうだ。元々、歌唱力のある統子である。自分で作詞しただけに歌に感情がこもっていた。
その甘い声で切なく唄い続ける歌は聴く人の心を惹き付けた。作曲してくれた先生の曲と詩がマッチし人々の心を捉えた。
なんと発売二ヶ月でヒットチャートに乗ると一気にスターダムに伸し上がった。芸能界とは恐ろしい世界だ。売れれば一気に人が寄って来て持ち上げる。売れなければ消えるしかない。売れて次がヒットしなければ忘れ去られる世界。
統子は歌手、麻野七星(あさのななほし)として正に星を掴んだ。変わった名だがこれは七曜星からとった名だ。別名北斗七星と呼ぶ。統子は掴んだ夢は逃がさないと誓った。俺も小さい星を掴むことが出来たが、統子の方はもっと凄い大きな星を手にした。もはや麻野七星を知らない人は居ないくらいの、有名な歌手に伸し上がって行った。
二人は夢を完全に掴んだかに思えたが、そう良い事が続くとは限らないのが世の常だ。
そんな折り忘れかけていた、あの三人の男達の目に止まった。やっぱり一度罪を犯し者は簡単に抜けられないようだ。
奴等は知っていた。麻野七星があの時の高校生だと。集団強姦の時効それが七年。丁度その時効が切れたことを知って奴らは獲物を求めて動き出した。だがこれは双方にとって勘違いだった。法改正により内容にも依るが時効は十五年とされている。有名人となった麻野七星を、自分達が強姦して更にそれをネタに強請りをかけて来た。
つづく
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