第4章 薄茶色のハチマキ (夜坂ケント編) 後編

六郭星学園 音楽室



あれから数日後……私たちは作曲の練習をしていた。


夜坂くんに弾いてもらうチェロの伴奏を聴いてもらうため、私は作曲した音楽を流しながらチェロを引いた。


夜坂ケント

「なるほど……これなら俺にも弾ける。練習すれば必ず良い曲になる。頑張るぞ……真瀬。」


真瀬志奈

「もちろん。私たちの曲だもの。必ず先生方……そして、オーディションにも合格しましょう。」


夜坂ケント

「そうだったな。オーディションか……なあ、歌詞とかはもうできているのか?」


真瀬志奈

「歌詞ですか?それは……まだできていないですけど……。」


夜坂ケント

「そうか……なら……できれば俺に書かせてくれないか?」


真瀬志奈

「夜坂くんが?……構いませんが……?」


夜坂ケント

「ありがとう……。どうしても書きたいんだ。俺たちの曲でもあるけど……どうしても……な。」


真瀬志奈

「…………?まあ……とにかく歌詞の方はよろしくお願いします。」


夜坂ケント

「ああ、もちろんだ。任せてくれ。」


そう言うと夜坂くんは練習を始める。時間に追われていた夜坂くんはあの時とは違い、とても楽しそうに練習を繰り返していた。


しばらくするとそこへ月川さんと柊木さんが来た。


月川タクト

「ケント!頑張っているな!」


夜坂ケント

「まあな、月川の方も順調に進んでいるのか?」


月川タクト

「もちろん!俺の方も順調に進んでいるぞ。俺たちはケントたちの作曲の方も楽しみにしているぞ!」


柊木アイ

「今見た様子だと作曲の方は大丈夫そうだね。頑張ってね。」


夜坂ケント

「柊木……月川……すまないな。俺たちは大丈夫だ。応援ありがとう。」


月川タクト

「変わったな。ケント。今はすごく楽しそうだもの。」


夜坂ケント

「そ、そうか?……まぁ、あの頃と比べたら今はとても充実しているかもな。」


柊木アイ

「あの頃は追われていたんでしょ。タイムリミットに。」


夜坂ケント

「ああ、だからこそ今ここにいられること……それが不思議だ。……けれど、今は最高に楽しい。」


柊木アイ

「良かったよ。ケントくんがそう言ってくれると。……随分と邪魔したね。そろそろ僕たちも戻ろう。」


月川タクト

「ああ、真瀬さん。ケント。楽しみにしているからな!」


夜坂ケント

「任せてくれ。真瀬と一緒なら心強い。俺たちはきっと良い作曲をできるはずだ。」


月川さんと柊木さんは強く頷くと音楽室から離れて行った。


夜坂ケント

「さてと……練習するか!」


真瀬志奈

「はい!」


私たちは再び作曲の練習に取り掛かった。


そして、時は過ぎ……



六郭星学園 大講堂



いよいよ、課題発表当日になった。課題はKクラスから1ペアずつ発表していき、そこからJクラス、Iクラスといき、Sクラスと回っていく。1ペアずつなので3日間に分けて発表をしていく。


そして今日がEクラスが発表をしていく、先陣を切ったのは月川さんたちのペアだ。


月川さんたちは戦国武将の甲冑を再現した模型を作った。


星野シキア

「へぇ……タクトのやつなかなかやるわね……。」


相当な再現なのか、星野さんは圧巻の表情をしていた。


中盤に入り、柊木さんペアが発表する。柊木さんはマジックショーを披露した。


古金ミカ

「ほぉ……なかなかの腕前ですな……!」


古金さんはそう言いながらも笑みを浮かべていた。


そして……トリを飾るのは私たちだ。



夜坂ケント

「準備はできているか?」


真瀬志奈

「ええ……もちろんよ。」


夜坂ケント

「よし……それじゃあ……これをつけるか……。」


夜坂くんが持っていたのは薄茶色のハチマキだった。


真瀬志奈

「ハチマキ……?」


夜坂ケント

「ああ、俺は大事な時にはハチマキをつけて落ち着かせるんだ。せっかく真瀬と作った作曲だ……。絶対に成功させる……!」


真瀬志奈

「夜坂くん……!」


夜坂ケント

「ああ……真瀬!行こう!」


真瀬志奈

「ええ!行きましょう!」


私たちはピアノとチェロを準備して、ステージの前に立つ……!


そして、合図をだして、演奏をする――




演奏が終わった――――他のみんなの反応は……


男子生徒A

「…………なかなかやるじゃねえか……。」


女子生徒B

「本当……心にグッとくるわ……。」


大講堂にいた人たちは感動して、拍手喝采が鳴り止まなかった。


鹿崎咲也

「……………………。」


笛花奏

「良い曲……だったわね。」


鹿崎咲也

「ああ……すげえよ。あんな曲、俺たちにはできねえよ。」


ステージから降りた私たちは喜びを分かち合った。


真瀬志奈

「やったわね!みんなから認められたわ!」


夜坂ケント

「ああ、あとはオーディションだ。作ったからには……絶対に合格しよう!!」


真瀬志奈

「はい!」



そして……数週間後、オーディションの日になった。私たちはオーディション会場前にいた。


夜坂ケント

「いよいよだな……。」


真瀬志奈

「ええ……」


夜坂ケント

「これまでの集大成だ。絶対オーディションに合格するぞ……!」


真瀬志奈

「ええ、もちろんよ。私たちが合格するんだから。」


私たちはオーディション会場に入る。



オーディション会場



審査員A

「次の方どうぞ。」


真瀬志奈

「失礼します。」


夜坂ケント

「失礼します。」


目の前には審査員が4人いた。そしてその4人の他にもう1人。その人は合格した曲を歌う声優さん、その人だった。


審査員B

「それでは、お名前をお願いいたします。」


真瀬志奈

「はい。真瀬志奈と言います。よろしくお願いいたします。」


夜坂ケント

「夜坂ケントです。よろしくお願いいたします。」


審査員C

「では早速ですが、音源を聞かせてください。」


真瀬志奈

「はい。こちらです。」


私は音源のデモテープを渡した。


審査員C

「では、早速聞かせていただきます。」


審査員の人がデモテープをセットすると、曲が流れた。私と夜坂くんで作った大切な曲だ。


審査員の人たちはとても真剣に聞いている。その中でも声優さんは誰よりも真剣に聞いていた。


曲が終わると、声優さんは歌詞はないかと聞いてきた。


夜坂ケント

「はい……。こちらです。」


夜坂くんは声優さんに歌詞の書いた楽譜を渡した。


楽譜をもらった声優さんは真剣な様子でその楽譜を見ていた。


その後、声優さんは何度か質問をする。私たちはそれにしっかりと答えていった。


そして……


審査員D

「面接は以上です。控室にてお待ちください。」


夜坂ケント

「はい。ありがとうございました。」


真瀬志奈

「ありがとうございました。」


そう言うと私たちは控室にて待つことになった。



オーディション控室



控室に行くと、そこには誰もいなかった。


真瀬志奈

「誰もいない……?」


夜坂ケント

「これは……一体……?」


ドアが開く音が聞こえる。後ろを向くとそこには審査員の人たちがいた。


私たちはつい身構えてしまう。

一体どんなことが起きるのか……?


審査員A

「おめでとうございます!オーディションの結果、あなたたちの曲が選ばれました!」


真瀬志奈

「え……!」


私たちは呆然とした。まさか本当に合格するなんて……!?


審査員B

「オーディションに落ちた人はすぐにお帰りになる仕組みになっております。」


審査員D

「ですので、今ここにいる方が合格者になっております。」


真瀬志奈

「私たちが……ですか!?」


審査員C

「ええ、おめでとうございます。」


そして、審査員の後ろから声優さんが出てきた。


審査員B

「今回のオーディション合格の最大の理由は歌詞がとても素晴らしいと本人が、言っておりました。」


夜坂ケント

「歌詞が……ですか……!?」


審査員D

「歌詞を書いたのはあなたですか……?」


夜坂ケント

「は、はい。そうですけど……。」


そう言うと声優さんが夜坂くんに近づいてくる。


夜坂ケント

「えっ……これは……?」


声優さんは夜坂くんに握手を求めてくれた。


夜坂くんもそれに応えた。


夜坂くんと声優さんは強い握手をした。


夜坂ケント

「この曲を……どうかよろしくお願いいたします。」


声優さんは強く頷いた。


そして……オーディションが終わり、私たちは会場を後にした。


合格が決まった数週間後……卒業の日になった。



六郭星学園 大講堂



SクラスからKクラスまで全クラスの生徒がずらりと並ぶ。


鹿崎咲也

「ただいまより、六郭星学園卒業式を行います。」


卒業式が始まる。1年間ではあるが、このクラスに出会えてよかったと実感する。


1人1人名前が呼ばれていく。


鹿崎咲也

「月川タクト」


月川タクト

「はい。」


鹿崎咲也

「柊木アイ」


柊木アイ

「はい。」


鹿崎咲也

「夜坂ケント」


夜坂ケント

「はい。」


仲の良かったみんなが呼ばれていく。

そして私も呼ばれる。


鹿崎咲也

「真瀬志奈」


真瀬志奈

「はい。」


そうか……卒業するんだ……。そう思うと悲しみに溢れていく……






鹿崎咲也

「以上で卒業式を終了いたします。」


そして、あっという間に卒業式が終わる。

本当にあっという間だった。卒業式も学校生活も。


ただ……唯一の救いは……。


月川タクト

「みんな同じ大学に進学するのか……。」


柊木アイ

「まあね。あそこは近くて楽だし。」


夜坂ケント

「それに俺らだけじゃないだろ。」


月川タクト

「ああ、シキアたちもだ。ていうか、こないだの期末テスト上位50人が全員同じ進学先って……。」


夜坂ケント

「偶然も偶然だな……。まあ、楽しくはなりそうだけどな。」


月川タクト

「それよりケント……来週だろ?ラジオで声優さんの曲が流れるのは?」


夜坂ケント

「ああ、俺たちの作った曲だ。楽しみで仕方がない。」


柊木アイ

「せっかくなら真瀬さんと2人で聞いた方がいいんじゃない?」


夜坂ケント

「いいのか……?」


月川タクト

「俺も良いけど……真瀬さんは?」


真瀬志奈

「もちろん良いですよ?」


特に断る理由もない。


夜坂ケント

「そうか……良かった……。」


真瀬志奈

「…………?」


安堵する夜坂くんに私は少しだけ疑問に思った。


その疑問を抱いたまま曲披露の当日になった。



六郭星学園 寮 莉緒・ケントの部屋



私は夜坂くんと莉緒の部屋で、曲を聴くことになった。


部屋には莉緒の姿はなかった。


夜坂ケント

「莉緒は今日は月川たちのところにいてもらっている。」


真瀬志奈

「月川さんたちのところへですか?」


夜坂ケント

「ああ……どうしても2人で聞きたかったからな……。」


真瀬志奈

「2人で……?」


どうしてかを聞こうとした時……ラジオが始まった。


夜坂ケント

「始まった……。聞こう。」


真瀬志奈

「ええ……。」


そして……その時が来た。


ラジオDJ

「それでは新曲です。合図をどうぞ!」


男性声優

「彼の思いを込めて歌いました。聞いてください。」


声優さんが言うと、私たちが作った曲が流れる……



真瀬志奈

「これって……夜坂くん……!」


私の頬からは一雫の涙が流れていた……


夜坂ケント

「真瀬…………。」


夜坂くんは椅子から立ち上がり私の前に片膝をついた。


夜坂ケント

「真瀬…………俺は不器用だ。けれど…………なんて言えばいいんだろう…………。」


真瀬志奈

「夜坂くん……。」


夜坂ケント

「真瀬………………好きだ。あのとき、出会えたこと……なによりペアになれたこと……運命だと思った……。」


真瀬志奈

「……………………。」


夜坂ケント

「これから先、どんなことがあっても守ります。この気持ち……受け取ってください。」


真瀬志奈

「…………はい。」


夜坂ケント

「あ……ありがとう……。」


真瀬志奈

「ええ……これからもよろしく……………………ケント。」


夜坂ケント

「ああ……志奈。」






虹谷サイ

「彼は違ったか……他を当たるとするか…………。」


             夜坂ケント編 完

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