第4章 薄茶色のハチマキ (夜坂ケント編) 前編

冬。夜坂くんは無事に退院できたが、ある課題が新たに夜坂くんには増えた……それは……


夜坂ケント

「それで……この量がテストの範囲なのか……。」


真瀬志奈

「ええ……。」


六郭星学園のテストは1年に1回しか行われない。しかもそのテストは1年間に学んだものが出題範囲になっている……つまりはかなり膨大な範囲のテストが行われる。


……そして、夜坂くんは出席数が少ないため、留年が決まっていたが、救済措置として夜坂くんはテストの順位が50位以内だった場合、留年は無しになり、一緒に卒業ができる。夜坂くんにとっては絶対に失敗ができない。


月川タクト

「安心して。俺たちがついているからな。」


柊木アイ

「僕たちが勉強を教えるから大船に乗った気持ちで頑張ってね!」


夜坂ケント

「みんな……すまない。恩に着る。」


私たちは夜坂くんに勉強を日が暮れるまで教えた。


日が落ちてきた頃、夜坂くんからお礼にと食事をご馳走してくれることになった。


私たちはそれにのっかり、食堂へと向かった。



六郭星学園 食堂



食堂に行くと何やら慌ただしい様子が見られた。


夜坂ケント

「なんだ……騒がしいな……。」


騒がしいところに目をやるとそこには中神さんと他クラスの小鳥遊カルマ(たかなし かるま)さんがいた。


中神シンジ

「カルマ……貴様……!」


小鳥遊カルマ

「なんだよ。俺だって忙しいんだ。君に構っている暇なんて無いんだ。」


中神シンジ

「なっ……!!貴様ァ!」


中神さんは小鳥遊さんに襲い掛かりそうになるものの駆けつけた生徒会長と副会長に取り押さえられ、食堂から引きずり出された。


夜坂ケント

「やれやれ……おっかないな……。」


柊木アイ

「何かあったのかな……?まあとりあえず食べようよ。」


私たちは一息ついて、食堂のご飯を食べて各自の部屋に戻った。


…………そして、数日後。



六郭星学園 Eクラス教室



鹿崎咲也

「今日は期末テストだ!みんな悔いのないように勉強したよな!頑張れよ!」


クラスメイトたちが「はい。」と答える。

私も頑張らないと……!


鹿崎咲也

「それでは……テスト開始!」


その言葉で私は裏返したプリントをめくる……



テスト終了のチャイムが鳴る。

私のプリントは空白欄は無く、出来る限りの答えを出した。そして全員が提出した……


テストの結果は大広間にて貼り出される。1位から最下位まで名前が載る。貼り出されるまでの間、ドキドキが止まらない。


そして……結果発表当日。


夜坂ケント

「いよいよ……だな。これで俺の運命が決まる……。」


夜坂くんは50位以内に入らないと留年が決まる。他の人よりも何十倍も緊張しているはずだ。


月川タクト

「大丈夫だよ。きっとな。」


柊木アイ

「そうだよ。自分を信じて。」


夜坂くんたちを2人が励ましてくれている。


私も勇気を出して応援した。


真瀬志奈

「大丈夫よ。夜坂くんならきっと……ね。」


夜坂ケント

「みんな……!」


そして、テストの順位が貼り出される……

生徒の人数は700人前後……私たちの結果は……。


真瀬志奈

「50位……!なかなかの順位ね……!」


700人中の50位。少なくとも低くはないはず……!私は安堵した。


夜坂くんは…………


夜坂ケント

「18位……!やったぞ!これで卒業できる!」


18位!文句なしの卒業決定ね!結果を知った私たちは自分のことのように喜んだ。


真瀬志奈

「夜坂くん、おめでとう!」


月川タクト

「やったな!ケント!」


柊木アイ

「おめでとう!僕たちも嬉しいよ!」


夜坂ケント

「ああ、みんなありがとう!無事に卒業できる……!」


私たちはしばらくの間喜びに浸っていた。


そして、2人の結果も改めて見ると、月川さんは12位、柊木さんは6位と良い結果だった。


夜坂ケント

「2人とも……おめでとう!」


夜坂くんもこれには喜んでくれた。


私たちはしばらくの間、そこで喜び合い、ようやくそれぞれの部屋についた。



六郭星学園寮 志奈・ナナの部屋



来川ナナ

「あ、おかえり。ケントはどうだった?」


真瀬志奈

「ええ、ケント無事に卒業できそうよ。」


来川ナナ

「本当に!?良かった……。」


ナナも夜坂くんの卒業が嬉しいのか安堵していた。


来川ナナ

「これで無事にみんな卒業できるのね。」


真瀬志奈

「ええ、ホッとしたわ。」


するとそこへ……夜坂くんがやってきた。


夜坂ケント

「やあ、邪魔して申し訳ない。」


来川ナナ

「ケント!卒業おめでとう!」


夜坂ケント

「ああ、来川、すまないな。」


夜坂くんがここに来るなんて珍しい。何かを話そうとしているのだろう。


夜坂ケント

「それでだ……真瀬……。」


真瀬志奈

「ええ、何かしら?」


夜坂ケント

「その……もう一度だけ、六郭星ランドに行かないか?」


真瀬志奈

「六郭星ランド?いいの?」


夜坂ケント

「ああ、あのときは焦っていたばかりにあまりいい思い出はなかっただろう。だから真瀬、もう一度でいいから行かないか?今なら俺は楽しくアトラクションを回れそうなんだ。」


夜坂くんが嬉しそうにそう話す。そんな夜坂くんを無下にはできない。


真瀬志奈

「ええ、もちろん!行きましょう!」


夜坂ケント

「それは嬉しい。それじゃあ後日行こうとしよう。」


そう言うと夜坂くんは部屋から出て行った。


来川ナナ

「なんだかケント……楽しそうね。」


ナナがそう言う。そう言うということは夜坂くんにもだいぶ変化があったからだろう。


そして私は六郭星ランドへ行く日までを待つばかりであった。



六郭星ランド



夜坂ケント

「久々の六郭星ランドだな。」


真瀬志奈

「そうですね。楽しみましょう!」


夜坂ケント

「ああ、そうだな。まずはあそこのアトラクションから行こう。」


夜坂くんが指をさした方はメリーゴーランドだった。近くまで行くと、行列ができていた。


夜坂ケント

「また行列か……。」


真瀬志奈

「そうですね。」


そう言う夜坂くんではあるが、表情はとてもにこやかな様子が見られた。


夜坂ケント

「まあ……この行列だ。すぐに回ってくるだろう。待とうか。」


真瀬志奈

「そうですね。待ちましょうか。」


あれ以来だいぶ穏やかな様子が続いている。あのときの呪縛から解き放たれたんだろう。


しばらく待っているとすぐに順番が回ってきた。


私たちが木馬にそれぞれ乗り込んで行くと、すぐにメリーゴーランドは回り出した。


真瀬志奈

「わあ……すごいです!」


夜坂ケント

「ははは……メリーゴーランドなんだから当たり前だろ。」


真瀬志奈

「それも……そうですね。」


私たちはメリーゴーランドを楽しんだ。


上下に木馬が動き回り、私たちはゆらゆら揺れる。この時間がとても穏やかな気持ちになる。

そして夜坂くんも同じ気持ちだろう。とても不器用な笑みではあるが、楽しいという気持ちが表れていた。


そして木馬が止まり、メリーゴーランドが終わる。


真瀬志奈

「楽しかったですね。」


夜坂ケント

「ああ、俺もだ。とても楽しかった。あのときは全くアトラクションを楽しめなかったけれど……今は最高に楽しい。」


真瀬志奈

「やっぱり……モンスターになるときのタイムリミットがあったからですか……?」


夜坂ケント

「ああ……それもあるな。余裕がとにかくなかった。けれど今は違う。今は最高に楽しい。その気持ちだけだ。」


真瀬志奈

「ふふ……良かったです。」


夜坂ケント

「…………ありがとうな。」


真瀬志奈

「えっ…………?」


夜坂ケント

「なんでもない。そろそろ別のアトラクションに行こう。あのときの分までしっかりと楽しむぞ!」


真瀬志奈

「…………はい!」


そうして、私たちはジェットコースターやコーヒーカップを楽しんだ。


ジェットコースターやコーヒーカップに乗っているときも夜坂くんはとても楽しそうだった。


あのときの呪縛から抜け出した夜坂くん。この調子なら課題である作曲も乗り越えられるだろう。


と思ったとき……。


ギギ……ガガ……


真瀬志奈

「えっ……!?」


何……この耳鳴りは……!?


ギギ……ガガ……


苦しい…………!


夜坂ケント

「だ、大丈夫か!?」


真瀬志奈

「よ……夜坂くん……!」


その言葉で我に返った。


夜坂ケント

「大丈夫か……?」


夜坂くんは心配そうな顔で見てくる。

私は大丈夫とそう言った。


夜坂ケント

「そうか……ならいいんだが……。何かあれば言うんだぞ。」


真瀬志奈

「あっ……はい。」


さっきの耳鳴りはなんだったのだろう……


ひとまずは残りの学生生活を満喫しよう……!

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