第3章 コバルトブルーの涙 (夜坂ケント編) 後編

六郭星学園 音楽室



私はすぐさま練習を始めた。まず私が考えたのは夜坂くんのチェロの技術。どこまで弾けるのか……私はここまではできるだろうと信じてチェロの伴奏を加える。


真瀬志奈

「よし……ここを……」


私は自分が完成したと言えるところまで作曲を続けようとした。


その途中で音楽室のドアが開く音が聞こえる。

ドアの前にいたのは月川さんと柊木さんだった。


月川タクト

「真瀬さん。頑張っているね。」


真瀬志奈

「月川さん!柊木さんも!」


柊木アイ

「来川さんから聞いたよ。ケントくんを信じて練習してるんだってね。」


真瀬志奈

「はい。私は待ってます。夜坂くんが元に戻ることを……。」


そう言うと月川さんと柊木さんはお互いを見て、ニヤリと笑った。


月川タクト

「それじゃあ、これ。貧相かもだけどアンパンと牛乳。頑張ってね。」


真瀬志奈

「あ、ありがとうございます!」


柊木アイ

「僕たちも信じているから。ケントくんのことを。」


月川タクト

「ああ、だからさ、作曲……頑張って!」


真瀬志奈

「はい!」


私はお礼を言うと月川さんと柊木さんは音楽室を後にした。


真瀬志奈

「頑張らなくちゃ……!」


私はアンパンをかじり、すぐさま練習を再開した。


数時間後……少しだけ作曲が詰まってきた……。どうしよう……。


??

「悩んでいるのね。」


真瀬志奈

「星野さん……!」


声をかけてきたのは星野さんだった。隣には古金さんも一緒だった。


古金ミカ

「はいはい。悩むのはいいけれど、こんなのはどうかなって。」


古金さんが持ってきたのは夜坂くんの写真だった。


真瀬志奈

「これは……!」


星野シキア

「ミカはね。ケントのことを見たら少しは思いつくこともあるんじゃないかって思ったのよ。……それで……どうかしら?思いつくことはあった?」


真瀬志奈

「夜坂くん…………。」


私は夜坂くんのことをさらに考える。…………そういえば、遊園地のときの夜坂くんの優しさ……不器用かもしれない……けれどその優しさも夜坂くんの一部なんだろう。私はその不器用な優しさを取り入れてみようと思った。


真瀬志奈

「ありがとうございます。おかげで少し作曲が進みそうです。」


星野シキア

「そう……それなら良かった。じゃあ私たちはここらへんで失礼するわね。」


古金ミカ

「ケンケンのことは私たちも応援しているからね!じゃあ!」


そう言い、2人は音楽室を離れた。


真瀬志奈

「よし……!頑張らなくちゃ!」


私はすぐにさっきの案を捉えてアレンジを加えた。


そして……さらに夜も更けて……私は莉緒を呼んだ。


真瀬莉緒

「そっか……出来たんだね。……作曲。」


真瀬志奈

「ええ、莉緒、お願い。夜坂くんの代わりにチェロを演奏して。」


真瀬莉緒

「もちろん。ケントのためなら!楽譜を見せて。」


真瀬志奈

「ええ、はいこれが楽譜。」


莉緒はしばらくの間、楽譜を見ていた。


真瀬莉緒

「ふぅ……大体は掴めたかな。」


さすがは莉緒。楽譜を暗記するのが早い。


真瀬志奈

「それじゃあ……演奏するわよ。」


真瀬莉緒

「了解。」


私たちは夜坂くんとの曲を演奏する。


不器用な彼の優しさと強さをイメージして作った曲……


私たちは夜坂くんの想いを込めて演奏をしている。


そして……


真瀬志奈

「……完成したわね。」


真瀬莉緒

「うん……良い曲だね。」


真瀬志奈

「莉緒……ありがとう。」


夜坂くんの想いを込めた曲はしっかりとテープに録音をした。


少しだけ安堵していたとき……鹿崎先生が入ってきた。


鹿崎咲也

「真瀬!……って2人ともいるのか。……いやそれどころじゃない!大変だ!」


真瀬志奈

「鹿崎先生!どうしたんですか!」


鹿崎咲也

「…………夜坂の容態が急変した。」


真瀬志奈

「…………!?」


夜坂くんがあの状態で……!?


鹿崎咲也

「来川のお父さまから連絡があってな、すぐに真瀬にきて欲しいとのことだ。」


真瀬志奈

「わ、わかりました!」


私はすぐに準備をして来川医療センターに向かった。



来川医療センター 監禁病棟



真瀬志奈

「ナナのお父さん!夜坂くんは……!?」


来川ナナの父親

「ああ……この通りだ。」


私は夜坂くんの部屋の中を見ると鎖で縛られているが、狼とも言える鳴き声を発しながら、もがき出している。


来川ナナの父親

「先程まで、大人しくしていたのだが、急に暴れ出してな……もしかすると自我まで失い始めているのかもしれない……。」


真瀬志奈

「なんとかならないんですか!?」


来川ナナの父親

「このままだと……上から射殺命令が下される可能性が高い……」


真瀬志奈

「そ、そんな……!?」


来川ナナの父親

「私だってそんなことはしたくはない!何か……何かないのか……。」


ナナのお父さんが考えている……。私たちにはどうすることはできないの……?


私は諦めかけたとき……大勢の人たちが夜坂くんの部屋に入ってきた。


来川ナナの父親

「君たちは……!」


部屋に入ってきたのは月川さんたちだった。


月川タクト

「ケント!しっかりしろ!俺たちがついているからな!」


月川さんたちは励ましの言葉をかける……しかし、効果はない……。


柊木アイ

「ダメなのかな……。……夜坂くんの大切なチェロを持ってきたけれど……。」


柊木さんは弾きなれないチェロをちょっとだけ弾く。


夜坂ケント

「…………!?」


来川ナナの父親

「……!?少しだけ反応したぞ!」


たしかに夜坂くんが少しだけ反応したのをこの目で見た。私は、柊木さんからチェロを借りて、弾き始める……。


夜坂ケント

「うおおおぉぉ…………」


星野シキア

「すごい……落ち着いてきてるわ。」


古金ミカ

「本当にチェロに反応しているのね……。」


来川ナナ

「ケント…………。」


夜坂ケント

「うおおおおぉぉ……。」


真瀬志奈

「落ち着いて……。」


真瀬莉緒

「姉さん……もしかするとさっきの曲に反応するんじゃないかな。」


なるほど……たしかにやってみる価値はありそう。


私は一旦チェロを弾くのをやめると再び夜坂くんは暴れ出した。


夜坂ケント

「ぐおおおおおお!!」


まずい……急がないと!


私たちは早速、曲を録音したテープを再生した。


曲が流れ始めると夜坂くんは次第に落ち着きを取り戻す。


夜坂ケント

「ぐおおおおお…………。」


夜坂くんの想いを込めて演奏した曲は他のみんなにも心に響いていた。


来川ナナ

「良い曲……。」


月川タクト

「こんな曲は初めてだよ……。」


古金ミカ

「心が……落ち着く……。」


柊木アイ

「あ!夜坂くんの様子が……!」


星野シキア

「あの獣の皮が剥がれていくわ!」


夜坂ケント

「ぐおおおおぉぉぉぉ……。」


次第に夜坂くんは元の夜坂くんの姿に戻っていった。


真瀬志奈

「夜坂くん!」


私は来川さんのお父さんの静止を確認せず、部屋の中に入って行った。


真瀬志奈

「夜坂くん……聞こえる……?」


夜坂ケント

「うっ……うぅ……。」


真瀬志奈

「夜坂くん……!」


夜坂ケント

「うぅ……ここは……どこだ?…………真瀬?」


真瀬志奈

「夜坂くん!!」


私は夜坂くんを強く抱きしめた。元に戻ったんだ。ホッとしたあまり、私の目からは涙が出ていた。


夜坂ケント

「おい……真瀬……どうしたんだよ。」


真瀬志奈

「良かった……本当に良かった……。」


夜坂ケント

「…………どうやら迷惑をかけた様子だな……すまなかった……。」


真瀬志奈

「いいの……本当に良かった……。」


月川タクト

「ケント!心配したぞ!」


元に戻った様子を見て、月川さんたちも部屋に入ってきた。


星野シキア

「もう……心配したのよ。他クラスではあるけれど。」


柊木アイ

「でも良かった……本当に良かった……。」


古金ミカ

「ケンケン!待っていたからね!」


来川ナナ

「ケント……。」


夜坂ケント

「はは……みんな、すまなかった……。俺は無事だ。」


みんながホッとするとナナのお父さんも部屋に入ってきた。


来川ナナの父親

「夜坂くん。本当に良かった……奇跡が起こったんだね。真瀬さん、本当にありがとう。」


ナナのお父さんは頭を下げてそう言った。


来川ナナの父親

「まだ退院はできないが、これなら閉鎖病棟から一般病棟に移せるだろう。」


真瀬志奈

「本当ですか!それも良かった……!」


来川ナナの父親

「ああ……夜坂くん……良い友人たちに出会えたんだな。」


夜坂ケント

「ああ……来川のお父さん……そう言っていただき、ありがとうございます。」


私たちはホッと一息ついたあと、来川医療センターを後にした。



…………数日後。来川医療センター



夜坂ケントの病室



夜坂くんはしばらくして、一般病棟に移った。ナナのお父さんは元に戻ったことは奇跡に近いとのこと。でもこの際、奇跡でもなんでも良かった。


入院中の夜坂くんは前とは違って穏やかな性格になっていた。


夜坂ケント

「すまなかったな。色々と。」


真瀬志奈

「いいのよ。無事で良かった……。」


夜坂ケント

「今まで言えなかったのは今回のことで、もし自分が、ああなるまでにはと思ってな……逆に焦らせてしまった……。それもすまなかった。」


真瀬志奈

「そうだったのね……。教えてくれてありがとう。」


そう言うと夜坂くんは少し笑みを浮かべた。


夜坂ケント

「変わったな。話し方も…………。」


真瀬志奈

「まあ……ねぇ。」


夜坂ケント

「なぁ……俺……実は……。」


真瀬志奈

「何?」


夜坂ケント

「初めて会ったのは、六郭星学園の合併する前だったんだ。」


真瀬志奈

「え…………?」


夜坂ケント

「俺は前にもここで入院をしていた時期があってな……」


真瀬志奈

「…………あ!」


夜坂ケント

「思い出したか……。」


私は高校2年の時のクリスマスの時、来川医療センターでピアノを奏でていたとき、1人の男の子がいた。


その男の子は何も言わずにただただ私の曲を聴いていた。


真瀬志奈

「あの子、夜坂くんだったの!?…………驚いたわ。」


夜坂ケント

「ははは……すまない。――けれど俺はこの六郭星学園になって真瀬に会って、同じクラスになって、ペアになったとき……運命と感じた。」


真瀬志奈

「夜坂くん……。」


夜坂ケント

「真瀬……これからもよろしくな。」


真瀬志奈

「ええ!」


夜坂くんは明日に検査があり、結果がよければ退院できるとのことだ。


残り少ない学生生活を夜坂くんと一緒に楽しむんだ!





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