第3章 コバルトブルーの涙 (夜坂ケント編) 前編


秋。あの件以来、作曲が進んでいない。夜坂くんのことでいっぱいだからだ。


月川タクト

「…………ケントのやつ大丈夫かな……?」


柊木アイ

「あれ以来、ナナさんから連絡が来ないからね……。」


夜坂くんはあの日から学校に来ていない。生徒会や先生方は他のクラスメイトたちにはこの件を伝えてはおらず、夜坂くんは体調不良でお休みと言う形になっている。


月川タクト

「ケント……無事であってくれよ……!」


そう月川さんが祈っているときにナナがやってきた。


来川ナナ

「志奈……ちょっといい?」


ナナは何故か恐縮しながら私に話しかけてきた。


真瀬志奈

「…………?良いけれど……?」


来川ナナ

「ちょっと2人で話さない?」


真瀬志奈

「ええ……わかったわ。」


私たちは月川さんたちのところから離れて廊下で話をすることにした。


真瀬志奈

「それで……話って……?」


来川ナナ

「ケントのことだけど……。」


夜坂くんのこと……?

一体何があったのかしら……?


来川ナナ

「ケントのことで、私のお父さんが呼んでいるの。もしよければ私のお父さんの話を聞いてくれる?」


真瀬志奈

「ナナのお父さん?」


ナナのお父さんから呼び出された……?それでも私は夜坂くんのことを聞くためならと思って拒否をしなかった。


真瀬志奈

「ええ……良いわ。話を聞かせて……。」


来川ナナ

「わかった。じゃあ、来川医療センターまで来て。そこの診察室で話をするみたいだから。」


真瀬志奈

「うん。今すぐ行くね。」


言われるがまま、私は来川医療センターへ向かった。



来川医療センター



来川医療センターの前までついた。受付前に白衣を着た男性が立っていた。その白衣の男性は私に近づき口を開く。


来川ナナの父親

「やあ、君が真瀬志奈さんだね。私はナナの父親だ。よろしく。」


白衣の男性はナナのお父さんだった。その人がナナのお父さんとわかった私はそのまま診察室へ案内される。



来川医療センター 診察室



来川ナナの父親

「……………………。」


ナナのお父さんは椅子に座るや否や急に黙り込む。しばらくするとようやく重たい口を開く。


来川ナナの父親

「夜坂くんのことだが……。彼が何故ああなったのか……知っているだろうか?」


真瀬志奈

「…………あのモンスターになったことですか?」


来川ナナの父親

「ああ……彼はずっとこの病院に通っていたんだ。彼の両親のせいでね。」


真瀬志奈

「夜坂くんのご両親?」


来川ナナの父親

「ああ、彼の両親は多くの借金を抱えていてな……その時に例の研究が始まったんだ。」


真瀬志奈

「例の研究……?」


来川ナナの父親

「研究については私も詳しくはないが、ある薬草を飲ませ続けた結果、あのモンスターになる……そんな研究が行われているんだ。」


真瀬志奈

「そ……そんな研究が……!?」


来川ナナの父親

「ああ……そして、お金に困っていた夜坂くんの両親は……自分の子供を実験台として研究所に売ったんだ。」


真瀬志奈

「そ……そんな……!?」


言葉が出ない。こんなことが起きているなんて……。


来川ナナの父親

「……来川医療センターはその実験台にされた人たちを救うべく、実験台にされたモンスターになりそうな人の治療を行ってきたんだ。」


真瀬志奈

「それで……夜坂くんは助かるんですか……?」


来川ナナの父親

「……………………。」


ナナのお父さんは黙り込んでしまった……しばらくすると覚悟を決めたのか、噛み締めていた口を開いた。


来川ナナの父親

「モンスターになっている人間は……治療をしたことがないんだ……申し訳ない。」


真瀬志奈

「そんな……!?」


夜坂くんは……助からないの……?


来川ナナの父親

「ただ……できる限りの治療はしてみるよ。それで助かるかは…………絶対とは言えない。」


真瀬志奈

「…………。夜坂くんに会わせてもらえませんか?」


来川ナナの父親

「………………。」


ナナのお父さんは椅子から立ち上がり、窓辺の景色を眺めてながら、なにかを考えていた。


決心がついたのか、私の方に向かってこう言った。


来川ナナの父親

「ガラス越しでよかったら構わない。」


どうやら許可を得たようだ。


真瀬志奈

「あ……ありがとうございます!」


お礼を言うと私は閉鎖病棟に案内された。



閉鎖病棟



閉鎖病棟の中は思いのほか綺麗だった。そして、夜坂くんのいる病室の前に着いた。


来川ナナの父親

「これが……夜坂くんの部屋だ。」


部屋の中に入る。そこにはモンスターになった夜坂くんがいた。


夜坂ケント

「ぐおおおぉぉぉぉ!」


真瀬志奈

「夜坂くん!!」


私は夜坂くんのことをしっかりと見ることは出来なかったが、夜坂くんはそこにいた。


真瀬志奈

「夜坂くん…………。」


私は夜坂くんとの今までのことを思い浮かべると、少し涙が出てきてしまった。


涙を拭き、こらえて、私は夜坂くんにこう言った。


真瀬志奈

「夜坂くん……私……待っているから……!!」


そう言い残し、私は閉鎖病棟を後にした。



来川医療センター 玄関前



ナナのお父さんにお礼を言い、私は学園に戻ろうとした。


その瞬間……大きな光が私を包み込んだ……。


真瀬志奈

「な、なんなの!?」


光が消えるとそこには見たことない男性がいた。


??

「やあ、真瀬志奈さんだね。」


私の名前を知っている……?


真瀬志奈

「あ、あなたは……?」


虹谷サイ

「僕かい?僕は虹谷サイ(にじや さい)。僕は今ある人物を捕らえに来たんだ。」


虹谷という人はある人物を捕らえると言った。私は恐る恐る誰なのかを聞いてみる。


真瀬志奈

「その人って一体……?」


虹谷サイ

「ああ、夜坂ケントだ。」


真瀬志奈

「夜坂くんを!?」


虹谷サイ

「ああ、というわけだ。彼を連れて行くよ。」


真瀬志奈

「だ……ダメです!!」


私はさすがに止めに入った。


虹谷サイ

「何故……止めるんだい?」


真瀬志奈

「夜坂くんは今、苦しんでいるんです!そんな状態から夜坂くんを連れて行くなんて……!私は許しません!」


虹谷サイ

「ほお……?あんな状態の彼をまだ人として見ているんですか?」


真瀬志奈

「な……!?」


虹谷サイ

「…………失礼。少し言いすぎたね。あなたはそれでも夜坂ケント。彼を守るのかい?」


真瀬志奈

「ええ。もちろんですよ。夜坂くんを絶対に助け出します!」


虹谷サイ

「ふう……。そういうことなら仕方ないね。お任せいたします。では……これで……。」


再び大きな光が私を包み込んだ。


光が消えるとそこにはもう虹谷と言う人は居なくなっていた。


真瀬志奈

「なんだったのかしら……?」


でも……夜坂くんを救い出すと言うことは変わらない。なんとか助け出す方法を見つけないと!



六郭星学園 図書室



私は学園に戻ると図書室に何か手がかりはないか調べてみることにした。


真瀬志奈

「やっぱり無いか……。」


よく考えてみるとモンスター化についてなんて世の中では全く知られていない案件。乗っているわけがない。


真瀬志奈

「一旦部屋に戻ろう……。」


私は大量の本を本棚に戻そうとするが、思いのほか時間がかかってしまう。そこへ図書委員の柚木アイラ(ゆずき あいら)さんが来て、片付けを手伝ってもらった。


真瀬志奈

「すみません。ありがとうございます。」


柚木アイラ

「いえ、構いません……私……でよければ……。」


真瀬志奈

「ありがとうございます。ではこれで……。」


私は図書室を後にした。


柚木アイラ

「ふぅ……あら?これは……?」



――月川一家交通事故事件まとめ――



柚木アイラ

「……?どうしてこれがこんなところに……?」



六郭星学園寮 志奈・ナナの部屋



来川ナナ

「あ、おかえり。」


部屋に戻るとナナが私を迎え入れてくれた。


来川ナナ

「どうだった?ケントの様子は?」


真瀬志奈

「…………。難しいかもしれない……。」


来川ナナ

「………………。ふう…………。」


ナナはため息をつくと窓の外を見つめていた。見つめていたナナは何かを考えているように見えた。


そして、何かを考え終わったのか、ナナはこんなことを言った。


来川ナナ

「ちょっと……ブラックジャックをしない?」


真瀬志奈

「ブラックジャック……?どうして急に?」


私にはナナが考えていることがわからなかった。……ただ、これがナナが気分転換に私にさせようとしているのかもしれない。

私はナナからの挑戦状に受けて立つことにした。


真瀬志奈

「いいわよ。勝負しましょう。」


来川ナナ

「よし……それじゃあ……いくわよ……!」


ナナとのブラックジャックの勝負が始まる!



決着がついた。勝ったのは……私だった。


来川ナナ

「負けね……。……でも楽しかったわ。ありがとう。」


ナナはそうお礼を言った。


真瀬志奈

「でも……どうしていきなり勝負を?」


私は疑問だったことをナナに聞いてみた。


来川ナナ

「……ケントことできっと悩んでいるんだろうなって。でもね……私はね、ケントが良くなるって信じているからね。私は志奈がこれで考え悩んでいるのみると辛くてね……少しでも気分転換になればなって思ってブラックジャックをやったわけ。」


真瀬志奈

「ナナ……。」


来川ナナ

「ねえ、信じてみてよ。ケントのことを。私は待っているから。」


真瀬志奈

「…………わかった。信じてみる!」


来川ナナ

「よし!じゃあ、ケントが戻るまでの間、作曲の練習をして待ってあげて!」


真瀬志奈

「ええ、わかったわ!私……やってみる!」


私は、机にある楽譜を手に取り、すぐさま音楽室に向かい練習を始めた。

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