第7話 魔王ちゃんとスキルのお勉強
「聖グレゴリーゼ学園とは、サンディリーデ国にある聖都ラフィルに属する街、プリムティスにある学園で、サンディリーデの中では2番目に大きな学校のことである」
退屈な授業にしびれを切らした僕は、鞄の中に入れっぱなしになっていた学校案内、所謂パンフレットを小声で読み上げ、欠伸を1つ。
デカいことに一体なんの意味があるのか、国から支給される補助金などに影響しているのかなど、つまらないことを考えながらパンフを捲っていく。
「え~っと、我が学び舎の理念やらなんちゃらは~――主の教えをうんたらかんたらで清く正しくほにゃららら~」
つまりミッション系の高校ということである。
授業内容も神の教えや神話だったり歴史であったり、他には算術やもっと専門的な言葉の様々、そしてスキルの研究や戦闘訓練などである。
高校だと思っていたけれど、専門的なことを授業でやることから、どちらかといえば私がいた世界の大学風味といったところだろう。
「なお、生徒の自主性のために、親元を離れて寮で暮らす決まりである。か」
3か月実家に帰っていないわけだけれど、大分いい暮らしをさせてもらっていたからか、すでにあの屋敷が懐かしい。ホームシックとは無縁とばかりに、しかしどうしたことかそれなりに寂しいようだ。
寂しさと相まってアンニュイな気分に陥っていると、それは実感を伴って脳に警鐘を告げる。
「え――うぉわぁっ!」
瞬時に魔王オーラを展開し、目の前に迫ったペンを指で挟んで受け止めた。
僕はすぐにこんな強攻に及んだであろうゴリラを睨みつけるのだけれど、彼女が顎で前――教壇の方を指しており、僕は訝しんで視線を変える。
「リョカ=ジブリッド、流石魔王様だ。今の一連の動作から君のスキルの扱いは最早完璧、私の授業は些か退屈だろうねぇ」
「え、あ~……あはは」
昼食前の授業はスキル全般のことで、担当教師のヘリオス=ベントラー先生が片目のレンズ、モノクルを光らせて厭味ったらしい視線で僕を見ていた。
「では別の者に」
「あー待って待って。もう一回、もう一回チャンスをくださいな先生」
「ふむ……ではリョカ=ジブリッド、スキルの基本的分類を答えてください」
「はい。スキルの分類は自己強化型、支援特化型、紋章及び詠唱術型、特質指定型の4つです」
「うん、普段の授業は真面目に聞いているみたいですね。ではそれら4つに当てはまるギフトは?」
「自己強化型はウォーリアー、バーサーカー。支援特化型はプリースト、吟遊詩人。紋章及び詠唱術型はマジシャン、術法剣士。特質指定型は魔王、聖女です」
「噂の魔王様は中々に勤勉ですね。では最後に、それらの特徴をお願いします」
相変わらず鼻につく言い方だが、僕はぐっと我慢をし、先生の問いに答える。
「体、精神、感情などを紋章、詠唱術など外部からの術を用いずに自身を強化するのが自己強化型、他の人物や物体に、自身を通したエネルギーによる治癒や強化を行なうのが支援特化型、スキルで覚えた紋章か詠唱を使用することで、超常的な力を放つのが紋章及び詠唱術型、特質指定型は……」
僕はそこで言葉を詰まらせる。習ったことは覚えているけれど、教わったことと自身の感覚に差ができており違和感を覚えたが、僕は頭を振ることでそれを払拭する。
「様々な要素が合わさっており、どの分類にも含まれないギフトのことです」
「素晴らしい、君は実に優秀だ。私の授業が退屈ではなかったことに安堵するよ。しかしこれだけ勤勉な魔王というのに危機感を覚えるべきか悩みどころだが、他の生徒諸君は彼女を見習わなければ、いつか本当の魔王としてリョカ=ジブリッドが現れた時に一瞬で滅ぼされてしまう可能性を頭に入れておいてくれ」
「んなことしませんよ~っだ」
「それは僥倖。おっと、そろそろ鐘が鳴る時間だ」
そう言って首に掛かっている時計を覗いた先生が告げたのだけれど、ふと生徒の顔を見回しており、僕は首を傾げる。
そして目が合ったからジッと先生を見つめていると、ヘリオス先生が思案顔を浮かべた。
「ふむ、このクラスではそれほどの危険はないと思うが、くれぐれも無理をしたスキル使用はしないように。授業で多少やったからといって身に付くものでもない。こればかりは地道にやっていくしない。そこの魔王様が至って簡単にやってのけたのは、単純に彼女が天才の部類だからだ。それを忘れないように」
先生が片手を上げて教室を出て行くと同時にチャイムが鳴り、授業が終わった。
僕は息を吐き、どうにも緊張した授業に、机に顔を突っ伏した。
そうしていると頭をはたかれ、僕は頭を上げずに首を動かしてはたいた人物を見る。
「なんだよ~」
「呆けているから殴ってほしいのかと」
「うんな特殊性癖はない。なんかどっと疲れた」
「あんた、意外と真面目よね?」
「ミーシャ、君は僕のことなんだと思ってんのさ。授業程度は真面目に受けるよ。というかミーシャさぁもうちょっと優しく知らせようとか思わないわけ?」
「だって離れているもの」
「僕とミーシャの間にいた数人が震えてるからね、あとで謝っておきなよ。っとそうだミーシャ、ほいお弁当」
「ん」
礼もなく受け取るのは慣れてきたからだと前向きに考えよう。
どうにも最近のミーシャは僕に対する感謝が足りないと思う。そもそもこんなに可愛い僕がお弁当まで作っているのに、反応が薄いのはどうなのか。
この昼休みの間に、僕のありがたみというのをミーシャに改めて理解させることを決め、昼食の準備に取り掛かるのだった。
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