第4話 僕たちあたしたち魔王様聖女様
「ミーシャさんや、一体僕はどこに引きずられていくんですかね?」
「儀式が終わった報告をしに帰るだけよ」
成人の儀が終わり、暴れる僕の顎に一閃を放った自称聖女の幼馴染に引きずられ、僕たちは帰路についていた。
「随分と長い間猫を被っていたわね。もういいの?」
「にゃぁ? 猫を被ったらもっと可愛くなるけれど、被らなくても僕は可愛いもの」
僕は立ち上がり、お尻をひょいとはたく。そして改めてミーシャに目をやるのだけれど、見てくれだけはばっちりお嬢様な幼馴染に吐息を1つ。
腰まで伸びた綺麗な黒髪を風になびかせ、ツリ目な瞳はぱっちりとしておりまつ毛も長く、片方の目元には黒子があり完璧な泣きボクロでどこか色っぽい。彼女は美しい顔立ちをしている。
こんな見目麗しい令嬢から、どうしてあれだけのパワーのある拳が放たれるのか、僕はどうしても理解出来なかった。
「魔王は可愛げの欠片もないと思うけれど?」
「え~、そうかなぁ? だってよく考えてごらんなさいよ。魔王ってみんな注目するでしょう、勇者や聖女なんかよりずっと存在を認識しておかなくちゃいけない存在。他の魔王のことは知らないけれど、可愛い僕が魔王になるんならもはやアイドルでしょ」
「あいどる? それが何かは知らないけれど、聖女や勇者じゃだめなの?」
「駄目。だってあいつら無条件にみんなから好かれるじゃない。しかも犬猫と違って可愛くなくても成り立つし。僕は可愛い僕をみんなに見てもらいたいの。ね、少しは魔王から可愛さを感じるでしょ」
「まったく」
わびさびのワの字もない貧相な感性を持った幼馴染にベッと舌を出して抗議の意を示した僕は、ふとミーシャのことで気になったことを思い出す。
「で、どうしてゴリラが聖女になんてなるのよ」
「次ゴリラって言ったら指全部へし折るわよ」
この世界にゴリラは存在しないが、幼い頃ミーシャに殴られた後、彼女にゴリラがどのような生物かを絵で説明したことがあり、僕の身近な人はゴリラがなんであるかある程度は理解している。
「あんたね、この国ではもう10年以上聖女の選出がなく、結構焦っている状況だったのは知っているでしょう? それであんたみたいな優等生が出てきちゃったから国中でやっと聖女が現れたってお祭り騒ぎだったのよ。でも、肝心なあんたが明らかに聖女を選びそうになかったから、変わってやったってだけ」
「あらありがとう。じゃあミーシャはこれから教会勤めでもするんだ」
「いやよ面倒くさい。そもそもあたしはすでにそこいらの神職者どもより信心深いんだから今さら教会ですることなんかないもの」
「……まさかやっと出てきた聖女候補2人が外れだとは誰も予想できないか」
どうにもこの国は聖女と縁がないらしい。聖女向きではない幼馴染を横目に、僕は国を憐れんだ。
「っとそうだ、せっかくだし聖女のスキルを見せてよ」
「じゃあ魔王のスキルも見せなさいよ」
僕はそれを承諾すると、魔王になった際に習得したスキルを発現させる。
「
魔王のスキルその1、絶気と呼ばれるそのスキルは体に強力なオーラを纏わせるというスキルだった。
しかしどうにも可愛くない。そもそも名前が男子中学生が喜びそうな名前なのも納得出来ない。
「威圧とか出来るスキルってこと?」
「それもあるんだけれど、基本的には体を覆って身を守るとか、武器に纏わせて強化するとかみたい。それにしても可愛くないなぁ。よし、僕は今日からこのスキルを魔王オーラと呼ぶよ」
「一気に弱そうなスキルになったわね。それじゃああたしも――リリードロップ」
ミーシャがそう宣言したが、特に変化は起きず、2人で首を傾げる。
「どんなスキル?」
「えっと、主への信仰を奇跡に変えるスキルだって。他を癒したり弱きものを守ったり」
「ミーシャの信仰心が足りてないとか?」
「あたしほど熱心な信者なんて他にいるわけないでしょう」
その自信は一体どこから来るのか僕にはわからなかったけれど、そもそもの話、ある程度信仰心がなければ聖女にすらなれないことを考えるに、スキルが発動しない理由が信仰心不足であることはあり得ないだろう。
「まあ、目の前には魔王しかいないからその信仰心を向ける相手がいないからとかじゃない」
「あんたのせいでスキルが発動できないとか、欠陥品にもほどがあるでしょう」
この口の悪さでどうして聖女になれたのかを思案してみるけれど、きっとあの女神さまのことだ、僕の幼馴染におこぼれを与えてくれたのだろう。
ああ女神さま、僕は相変わらず元気でやっています。と、この世界に生まれ変わらせてくれた女神さまに感謝の気持ちを天に届けるように僕は祈った。
「スキルとしてはあれだよね? 多分僕の魔王オーラと似たタイプのスキルだよね」
「あんたのと?」
「うん、発生源が違うのと自身に影響するか他に影響するかの違いしかないんじゃない? だってようはよくわからないスピリチュアル的なエネルギーを放出するスキルなのは同じだし」
「あんたの言っていることはよくわからないけれど、あんたのスキルを参考にすればいいのね?」
「そう。とは頷きにくいけれど、扱い方としては同じような感じじゃないかな」
考え込むミーシャだったが、何もすぐに使うわけではないだろうと僕は彼女の背中を押し、帰路を急ぐ。
「というかあんた、おじさんへの言い訳くらい考えておきなさいよ」
「大丈夫大丈夫。パッパはあれで僕のことなんてまるっきり信用してないから」
「それを大丈夫とは言わないと思うのだけれど」
呆れるミーシャを無視して僕は駆け出した。
きっと叱られるけれど、今に始まったことでもないために深く考えることを止めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます