#047 クロノ暗殺作戦⑧

「まだ、裁かなければならない人たちがいます」

「「…………」」


 ――――一同の視線が、サンボに加担した保守派に集まる。個々の詳しい事情までははかりかねるが、村社会特有の伝達速度を考慮すれば『全く知りませんでした』で通すのは難しいだろう――――


「サンボや賊に協力した者。そしてそれを知りながら黙認した者は申し出てください。素直に協力してもらえれば…………村長として、寛大な判断がくだせるよう努力します」

「「………………」」

「その! 私は何も知らなかったんです! 旦那に頼まれて食事を用意したくらいで」

「なぁ! お前だって……! ……!!」


 ――――醜い争いを、ニーナをはじめとする共和派が悲しい顔で傍観する。たしかに、重要な役割を受け持っていたのは一握りの者だけであろう。しかしながら賊を手引きするのは(理由はどうあれ)死罪が確定するほどの重罪であり、それを知りながら容認したとあればコレもまた同罪として扱われる――――


「ところで……。村や監督役(クロノ)に謝罪する者は、いないのですか?」

「いや、それは!?」


 ――――収拾がつかなくなった状況を収めるべく、ニーナが謝罪をうながす――――


「その、本意では無かったが…………村に迷惑をかけたのは事実だ。その罪を償う覚悟はある」

「お、オラもだ!」


 ――――今回の一件で、現在判明している死者は10名。そこに治療を受けている重症者が多数加わるが…………年齢もあり、その大半は助からないか、助かっても肉体労働である農業を続けるのは難しい。彼らもこの惨状を重く受け止めており、少なくない罪悪感を抱いていた――――


「村(他の村民)への気持ちは理解しました。それで、クロノ様への謝罪は?」

「「…………」」


 ――――それが出来るのなら、ハナからサンボに協力などしていない――――


「はぁ~~。どうして!? 貴方たちは、そんなに……」

「「なっ??」」


 ――――突然、泣き崩れるニーナ。そんな彼女を見て皆が困惑する。ニーナは幼い頃から勉強熱心だった。それは政略結婚を運命づけられ『村の代表として恥ずかしくない知識と礼節を身につけよ』という教えが切っ掛けではあったが…………分別がつき、優しく皆に慕われる名村長である父親の"無力"に気づき、そして無力を自覚すらしていない母親たちに絶望し、そして、母親たちや村民が本質的には同じ。求めているものは"解決"ではなく『耳障りの言い答え』、つまり同感や納得することしか考えていない事を理解しかけていた――――


「そろそろか?」

「「!!?」」


 ――――そこに現れたのは、村の監督役にして農奴とかした村民の所有者、クロノであった――――


「本当に、申し訳…………ありません」

「お、お嬢! なんで!??」


 ――――泣きながらも、地に額を押しつけて謝罪するニーナ――――


「なんでって、奴隷が謀反を起こしたんだぞ? さすがにコレは見過ごせない」

「それは!」


 ――――放置されているので忘れてしまうが、彼らは奴隷。そうなれば当然、平民よりも厳しい裁きがくだるのは必然となる――――


「これまで俺に協力的でなかった者は…………全員、処刑だ」

「「はぁ!?」」

「ふざけるな! そんな横暴……」

「横暴でも何でもない。奴隷を抱える主人として、これは"義務"だ」


 ――――奴隷の主人であるクロノは放任主義であったため、学の無い農民は甘く受け取っていたが…………奴隷制度は国が保証するものであり、主人でも自由にできない領分が存在する――――


「はぁ!? いや、たしかにそうかもしれんが……」

「いや? でも、だからって!?」


 ――――彼らはニーナから、農奴について説明を受けていた。それが無くとも奴隷が主人に逆らえないのは常識であり、彼らも最初は裁かれる覚悟を持って抗議活動に参加していた。しかしながら集団心理とは怖いもので、いつしか根拠の無い自信に支配され、ついには一線を踏み越えてしまった――――


「もう諦めろ。たしかにその通り。これはさすがに許される限度をこえている」

「そもそも許されないんだよ! 理由はどうあれ、村を襲うよう手引きした時点で!!」


 ――――共和派が保守派を非難する。彼らにも保守派の心情を理解できる部分はあったが…………それでも、今回の一件は擁護できるレベルをこえている――――


「いや、だからって納得できるか!!」

「そもそも奴隷だって騙されて……」

「待ってください! 私は反省しています。賊にも関わっていないので、どうかご慈悲を!!」


 ――――関係の浅い者たちがクロノにすがりだす。村の結束は強固だが、中には他所から越してきて、うわべだけ取り繕っている者も少なくない――――


「そうか。関与は認めるし、協力もすると?」

「「は、はい!!」」

「本当に、反省しているんだな?」

「「もちろんです!!」」

「そうか。それなら…………処刑も、快く受け入れられるな」

「「はい?」」




 ――――罰に求めるものはそれぞれ異なるだろうが(日本の"更生"と違って)クロノが求めるものは"償い"であり、そうなれば反省が意味するものは『素直に受け入れる』事となる――――

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