#046 クロノ暗殺作戦⑦

「そろそろ頃合いでしょうか?」

「そうね。子供たちも充分活躍したみたいだし」


 ――――村長宅での騒動を観察する影。その正体はシアンとその側近。彼女たちは独自に村の危機を察知していたが、あえて未然に防ぐことはしなかった――――


「それじゃあ…………恨むなら、雇い主を恨んでね!」

「ぶほっ!? なんだこの粉は??」

「不味い! 火を近づけるな!!」

「うぁあああ!!?」


 ――――飛来した袋が破裂し、それに合わせて賊が持っていた松明の炎が弾ける。続けざまに光魔法や水魔法が降り注ぎ、戦局は瞬く間に覆っていく――――


「姐さんの援護だ!」

「よっし! 一気に畳み掛けるぞ!!」

「だから、姐さん言うな!」


 ――――共和派に属する村民たちが喚起する。彼らは交易所に出入りしており、その守りの要となっているシアンの部隊の実力も知っていた――――


「余所者が! 余計なマネを……」

「言ってる場合かよ!」

「あぁ、クソッ! 言われんでも分かっとる!!」


 ――――皆が一丸となって賊に相対する。村は2つの勢力に分かれているものの、どちらの勢力も村を守りたい気持ちは本物であり、加えて保守派にはサンボ経由で賊を村に招き入れてしまった負い目がある――――





「ハハッ! まさか、こんな老いぼれや女子供に後れを取るとはな」

「足掻いても無駄だ! 観念して投降しろ!!」

「ハッ! バカ言うな! 投降して何になる!!?」

「「!??」」


 ――――外での攻防に決着がつき、蔵などを捜索していた賊たちの退路がたたれる。当然ながら"詰み"の状況だが、賊に投降する選択肢はない。もしそんな事をすれば間違いなく死刑。それも、見せしめにどんな惨い仕打ちをうけるか――――


「役人にダラダラ裁かれるなんて真っ平だ! 今まで好き勝手やってきたんだ! だから死ぬのも…………勝手にさせてもらうゼ!!」

「「!!?」」


 ――――賊が次々と自決していく。この国では処刑も娯楽の1つとなっている。それは格差の激しいこの世界で、積もり積もった鬱憤を晴らすために必要な行為であり…………重犯罪者が最後に出来る社会貢献となっていた。しかしながら彼らに見世物になる義理は無く、最後の抵抗として彼らはこの結末を選んだのだ――――


「なんだコイツラ」

「いや、勝手に死んでくれるならそれでいい」

「皆さん、警戒してください! まだ賊が隠れているかもしれません!!」

「「おぉ……」」


 ――――勝利に歓喜していた村民たちの表情が曇っていく。村長宅は守れたものの、失ったものは多く。何より血塗られた最後が、勝利の喜びを後味の悪いものへと塗り替えていった――――


「たたた、助かった! ありがとう、皆」

「サンボ! お前……」

「「……………………」」


 ――――場の空気が一瞬にして凍り付く。そこに現れたのはこの事件の元凶であり、それが(苦し紛れではあるが)被害者を装って飛び出してきたのだ――――


「なにを今更。この裏切者が!」

「ちちち、違う! 俺は脅されて仕方なく! そ、そうだ! 俺はニーナを助けようと思って!!」

「私は先ほど襲われかけていたところなんですけど? もちろん、サンボあなたに」

「それは!?」


 ――――苦し紛れについた嘘が、即座に露呈していく。その嘘はあまりにもお粗末すぎるものの、今まで散々、場当たり的にやり過ごしてきた彼にはこれが限界であった――――


「今回の一件で、サンボあなたが賊を率いていた事は分かっています」

「いや、俺は!!」

「黙れ裏切者!!」

「そうだそうだ! ……!!」


 ――――サンボに加担していた保守派の面々が、口をそろえてサンボを非難する。彼らには加担した罪を逃れたい気持ちもあるが、それと同時に、汚名返上の機会を与えたのにアッサリ裏切ったサンボへの怒りがあった――――


「皆さん! 静粛に!!」

「「!!?」」

「村長代理として、私が、サンボの処遇を決めます。……異論は?」

「「…………」」


 ――――村長として、ニーナがこの場をいさめる。それまでの彼女は、未成年と言う事もあり何処か頼りない部分が残っていたが…………この場での彼女には、代表としてこの場を仕切るに相応しい威厳と怒りオーラが感じられた――――


「村を襲ったのは成り行きで、この展開が本意で無かったのは認めます」

「そそそ、それじゃあ!!」

「しかし! それでも貴方がしでかした事は擁護できる範疇を逸脱しています」

「ふぇ?」


 ――――サンボが賊を村に招き入れたのは事実であるものの、(交易所は別として)村を襲う計画は賊に脅されて仕方なく選んだものだ。もちろん、サンボには村八分にされた恨みもあったが、村を襲うのに加担したのは彼の処世術からくる条件反射的な行動であり、明確な"悪意"は無かった。(そもそもそこまで考えていない)――――


「この者を拘束してください。後日、処刑します」

「「おぉぉ!!」」

「そそそんな、俺はただ! ……まて、待ってくれ! 話せば!!?」


 ――――興奮冷めやらぬ村民が、サンボを殺す勢いで取り押さえる――――




「それと……」

「「??」」

「まだ、裁かなければいけない人たちがいます」

「「…………」」

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