#045 クロノ暗殺作戦⑥

「なな、何がキノタだ! 何が村長だ! そんなの知るか。どいつもコイツも……」


 ――――独り言を垂れ流しながら、サンボがニーナの寝室(の前に)到着する。外は騒々しく、ニーナが起きて避難していても不思議は無いが…………今のサンボに、冷静に状況を分析する余裕はない――――


「でゅフフ……」


 ――――静かに部屋のドアが開かれ、嫌らしい笑みがその中へと吸い込まれる。ニーナが寝ているであろうベッドは月明かりに照らし出され…………この世界にはまるで、ベッドしか存在していないような印象を放つ――――


「…………。あれ??」


 ――――布団を捲ろうとしたところでようやく、ベッドの違和感に気づく。それらしく形作ってあるが、そのベッドは無人であり、ニーナの姿はない――――


「もらった!!」

「ぐべっ!!」

「野生の勘? 気づくのが早くて焦ったわ」


 ――――部屋の死角から次々と少女が現れる。彼女たちはニーナとその護衛――――


「えっと、死んでは……」

「死んではいないと思うよ? 鞘で殴っただけだし」

「そう、ですか……」


 ――――複雑な表情を見せるニーナ。彼女としても自身の寝室で死人が出るのは避けたかったが、1人の女として、サンボが生きている事に強い嫌悪感を抱いてしまう――――


「ぐぉオオ!! なんだ、お前ら!!」

「ヒィィ!?」

「まだ意識が? 完全に、入ったと思ったんだけどな~」

「言ってる場合? 構えて!!」


 ――――鞘とは言え、急所を強打されたサンボ。しかしながら彼は立ち上がった。それは彼の首回りが脂肪の壁に守られていた事もあるが…………そもそもの問題として、彼は猟師であり、戦えばそれなりに強い。それこそ、この中の誰よりも――――


「ななな、なんだ、おまえら! って、女か……。でゅフっ!!」

「「ヒッ……」」


 ――――サンボの表情を見てしまった少女たちが短い悲鳴を漏らす。彼女たちもこれまで過酷な人生を送ってきたが…………それでもなお、その視線から感じる嫌悪感は人生で1、2を争うものであった――――


「おお、お前たち。処女だな? 臭いでわかる」

「だったら何? 貴方には関係ないでしょ??」


 ――――実際にサンボが、臭いで相手の貞操を嗅ぎ分けられるかはさて置き…………彼はニーナと同い年かそれ以下の少女たちを見て、勝利と、思わぬ副報酬が舞い込んできたことに歓喜した――――


「て、抵抗しても無駄だ。俺はお前たちよりも強い。死にたくなければ…………服を脱いで、ぜ! 全員で俺に奉仕しろ!!」

「どうかな? ワタシには、良い勝負くらいに思えるけど」

「そもそも貴方と交わるくらいなら、死を選びます」

「「うんうん」」


 ――――全会一致。この世界は日本ほど容姿や性格を重要視しないが、それでも限度はある。それに何より、今のサンボに容姿を補う魅力は残されていない。彼はすでに村を追われ、全てを失っているからだ――――


「ば、バカにしやがって……。ならイイ。力尽くで、俺が"男"を教えてやる!!」

「いや、そもそも貴方。教えられるほどの経験、あるんですか?」

「……。ううう、う、煩いィィィ!!!!」


 ――――癇癪をおこし、暴れはじめるサンボ。そう、彼は知らなかった。ネットや雑誌のないこの世界で、具体的に何をしたらいいのかを――――


「ぐっ! つよっ」

「しかし、凄みは感じませんわ」

「たしかに」


 ――――体格やセンスに頼った攻撃のサンボ。体重をのせた攻撃は、身軽な彼女たちには脅威であったが…………それは大型の魔物と同じであり、彼女たちは動じなかった――――


「無理はしないで。まずは機動力をいかせる外に……」

「ダメです! サンボかれ1人ならともかく、連れてきた賊に加勢されると」

「あっ」


 ――――周囲には村民も居るが、純粋な戦力は賊が勝っている。それに何よりニーナは村長であり、それが賊の手に渡る事態は回避しなければならない――――


「ブひひぃ! そら! 諦めるなら、今のうちだ…………ゾ!!」

「ぐっ!?」


 ――――サンボの剣が少女の装備を斬り裂き、白い肌が見え隠れする――――


「でゅふふふ……」

「ねぇ、ちょっとイイ?」

「え? 今、取り込んでいるんだけど……」


 ――――少女の1人がサンボの視線の動きを見て、作戦を思いつく。少女たちの体格や戦力は未熟だが、そのハンデを補う方法は存在する――――


「正直、気は進まないけど……」

「こうなったら、仕方ないか」

「お、おぉ!!?」


 ――――少女たちが上着を脱ぎすて、発育途中の乳房が露わになる――――


「そそ、そんなものに惑わされないぞ!!」

「「…………」」

「思いっきりガン見しながら言われても、説得力、ありませんね」

「人をさんざん処女とかバカにして、自分は童貞丸出しじゃん。いい歳して」

「ドドド、童貞ちゃうわ!!」


 ――――少女たちは処女ではあるものの、娼婦の子であったり奴隷商で指導を受けたりして知識と、何より戦う覚悟があった。加えてサンボは拗らせ童貞であり、煩悩最優先であったため著しく集中力を欠いてしまった――――


「ちなみに私たち、処女じゃないから」

「え……」

「そうそう。みんな、クロノ様に奉仕した経験、ありありなんだから」

「と言うか、ニーナさんもクロノ様と同衾したんですよね?」

「え? あ、あぁ~。そう! もちろん、夫婦ですから」

「う……」

「「う??」」

「う”ぁぁぁァァァ!!!!」

「「………………」」




 ――――発狂し、窓を突き破って飛び出していくサンボ。少女たちも動揺させるために嘘をついたが…………彼の童貞コンプレックスは、彼女たちの想像を遥かにこえていた――――

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