#044 クロノ暗殺作戦⑤

「しっかし、デカい屋敷だな。蔵もいっぱいあるし、これは期待できそうだ!」

「あまり期待しすぎるなよ。祭事で使う道具(換金できない)とかもあるだろうしな」

「あぁ~、なるほど」


 ――――村を一望できるちょっとした丘の上。そこには高い塀に囲まれた村長宅がある。これは見方によっては"城"ともとれる作りだが…………祭具の保管だけでなく、魔物や賊の襲撃に備える役目もあり、必要に応じて作られたものであった――――


「盗賊風情が! 観念しろ!!」

「この、裏切者どもが……」

「だから、余所者は信用ならんと言ったんだ」

「「!!?」」


 ――――母屋までやってきたところで、農具で武装した村民たちが賊を取り囲む。賊はこの事態を恐れて、目撃者を即座に殺したのだが…………村民は賊をハナから信用しておらず、村が襲われる事態も想定して待機していた――――


「ひぃ!!」

「大人しく投降しろ! ここは余所者の血で汚していい場所じゃない!!」

「驚かせやがって。老いぼれが、死に急ぎに来たか」


 ――――とっさに屋敷に飛び込み、隠れるサンボ。対して賊と村民は血走った面持ちでにらみ合う。武器や体格は賊の方が有利だが、人数と地理の有利は村民にある――――


「ここは俺たちが食い止める! お前たちは蔵を頼む!!」

「おっし! こうなったら選んでいる余裕はねぇ! 手当たり次第にブチ破れ! 終わったら火を放つぞ!!」

「「おぉ!!」」

「やめろ! そんな事をして……。……!!」


 ――――しかし賊は賊であり、戦士と違ってハナからまともに戦う気を持ち合わせていない。彼らは班を分け、のらりくらりと農民の攻撃を押し留めながら屋敷の捜索を優先する――――





「くそっ! こっちの蔵はハズレだ!!」

「こっちの部屋も空だったぞ! たく、どこに隠しやがった!!」


 ――――入れる場所を手当たり次第に物色する賊たち。しかし換金できそうなものは見つからず、徐々に焦りが生まれていく――――


「焦るな! 仲間はしっかり持ちこたえている。手間だが地下室が無いかも確かめろ!!」

「「おぉ!」」


 ――――そもそも村長宅に金目のものは残っていない。もちろん前々村長は、貧しくとも村の代表として最低限必要なものは残しており、その中には高価なものも幾つかあった。しかしそれを継いだイーワンや母親は違う。村民には例年通りの年税を納めさせるフリをして、その金を懐に。価値のあるものも容赦なく売却して、その資金でオミノに移り住み、商会を買い取ったのだ――――





「うへへ。こうなったら、ニーナだけでも犯してやる!」


 ――――危機的状況で、なぜかサンボは半笑いを浮かべていた――――


「そうだ! 犯した後は人質にしよう。生意気なメスガキでも、いちおう村長だ」


 ――――おぼろげな記憶をたよりにニーナの部屋を目指す。彼は一応親戚であり、かなり昔ではあるが、ニーナの部屋に入った経験もある――――


「ここだ! ぐへへへ、ぐひ。ぶびびびび!!」


 ――――興奮と慢性的な鼻炎、そして息切れから人らしい言葉が失われていく。もともとの容姿もあり、その姿は豚のバケモノといった様相であった――――





「くそぉ! あと20若ければ」

「まだだ! この村はオラたちの村! 死んでも守り抜く!!」

「いい加減、諦めたらどうだ? 大人しく金を出せば、命ばかりは助けてやる」

「ふざけるな! 金や命欲しさに村をうって、先祖おっとうたちに顔向けできるか!!」

「なっ、なんなんだよ、コイツラ」


 ――――戦力的には余裕のある賊たちであったが、その精神的疲労は予想を遥かにこえるものがあった――――


「て、手伝います!」

「なぁ! お前ら!!?」


 ――――加勢に入ったのは、農作業を手伝っていた孤児たち。しかしながらクロノ暗殺の話は伝えておらず、騒ぎを聞きつけたにしても対応が早すぎる。しかしながら状況は、ソレを論ずる事を許さない――――


「ガキは下がっていろ!」

「そんなこと、言っている場合ですか!」

「ぐっ……。無理はするなよ!」

「「はい!」」

「くそっ! 中に入った連中は何をしている!!?」


 ――――さしもの村民も、しかたなく加勢を受け入れる。とは言え孤児の戦闘能力が期待できるわけもなく、塀に登り投石などで加勢する――――


「ダメだ! お宝は運び出されている! 別の場所だ!!」

「くそっ! 読まれていたか……」


 ――――村民が待ち構えていた事もあり、賊もこの展開を薄々察していた。しかしながら彼らは、引くに引けない。何故なら近いうちに大規模な野党狩りがあるとの情報があり、近日中に他領地に移り住まなければならないのだ。そのためには関所の役人に渡す袖の下や、新天地で基盤を固めるための資金が必要になる――――


「こうなったら、覚悟を決めろ。必ず、どこかにお宝はあるはずだ!」

「「おうッ!!」」




 ――――賊の瞳に覚悟が宿る。しかしながら彼らは知らない。最初から村に貯えなど無く、噂の野党狩りの真相は…………この現状であった事を――――

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