#043 クロノ暗殺作戦④
「ハハッ! 興奮してきたぜ」
「相手は一流の冒険者だが…………倒せば付く"箔"も一等級だ!」
「一流と言っても、引退してかなりたつ老いぼれだけどな」
――――クロノが居るであろう小屋を、高い場所から見下ろす3つの影。彼らのターゲットは当然クロノであり、その恐ろしさも聞き及んでいる。しかしながら、だからこそ彼らには挑む意味が生まれる――――
「しかも寝込み、それも3人がかりだ」
「いいんだよ。卑怯でも何でも、生き残った方が"勝者"だ」
「「だな」」
「しかし、霧が濃くなってきたな」
――――夜霧が月明かりを散らしていく。まだ視界は失っていないものの、この調子で濃くなれば撤収時に遭難する可能性もでてくる――――
「そろそろ仕掛けるか。村の襲撃で、誰かがコッチに逃げて来ても困るしな」
「そうだな。せっかく死神に勝っても、遭難して帰れませんでした、なんて事になったらカッコがつかねえ」
――――忍び足で小屋に近づく面々。岩場だからか、それまで煩かった虫の音も気づけば静まりかえっている――――
『下手な小細工は逆効果だ。合図で、いっきに行くぞ』
『『おう!』』
――――小屋は高床式で、ちょっとしたデッキがついている。(手間をかければ挟み込めるが、実質的には)侵入経路は1方向に限られてしまうが、幸い、部屋数は1部屋なので難しく考える必要性は薄い。これは"速攻勝負"が最適解と言えよう――――
『行くぞ!!』
『『おぉ…………ぅオ!??』』
――――勢いよく階段を駆けのぼろうとする3人の足が、とつぜん、紐のようなものに引っかかり、そろって転倒する――――
「3人程度で、よく、俺の首を狙う気になれたな」
「「しまっ!?」」
――――何食わぬ顔で背後に立っていたのは、ターゲットであり室内に居るはずのクロノ。しかし小屋に死角はあるものの、高床式なので飛び降りれば音で気づけたはず――――
「いつのまに!?」
「たしかに気配は……」
「口数の多い連中だ」
「「へ??」」
――――風のせいだろうか? 霧に浮かび上がるクロノの体がわずかに揺らぐ。それに合わせて、2人の賊の手足が胴体に別れを告げる――――
「え? う、腕が!!!?」
「うあ”ぁぁぁぁぁ! 足が!!?」
「いつ、いつのまに!??」
――――どちらが強いか? そんな議論の余地もないほどの明確な実力差。そこでようやく3人…………いや、意識が残っている1人が気づく。自分が挑んだ相手、そして世界の壁が、あまりにも高く、分厚かった事を――――
「お、おい! 良いのかよ!? 今、仲間が村を襲っている!!」
「だろうな」
「ぐっ……」
――――冷徹なクロノの一声。その僅かな言葉だけでも、『交渉は無駄』と悟るには充分であった――――
「「…………」」
「分かった! すべて話す! 依頼者とか、裏事情が知りたくて俺を生かしたんだろ!!?」
――――生き残った賊の判断は早かった。もとより商会に義理は無く、戦士としても美学も持ち合わせていない。そうなれば、強い方、楽な方を選ぶまでだ――――
「お前、俺の通り名を知らないのか?」
「はぁ? たしか…………死神だったか」
「俺は他人を信じない。お前の言葉も、腕前も、覚悟も」
「へぇ? …………いつの、ま…………に……」
――――残った賊の体も、気づけば切断されていた――――
「俺は敵だけでなく、裏切った仲間も皆殺しにしてきた。そのせいで"仲間殺し"なんて呼ばれていたんだよ。元々はな」
「…………」
――――夜霧が晴れていく。するとそこには、かろうじて人に見える"影"が佇んでいた。これは簡単な魔法と気配遮断を組み合わせたトリックであった――――
*
「おい、サンボたちじゃねぇか? なんでこんな…………ぐふっ」
「こここ、殺したのか?」
――――村長宅に向かう賊の一団。その道中で出くわした老人を、賊の1人が有無を言わさず刺殺する――――
「ちょっと、眠って貰っただけだよ」
「そうそう、永遠にな」
「ヒぇ!」
――――思わず悲鳴を漏らすサンボ。彼は村の事などなんとも思っていなかったが、それでも今回の一件も軽く考えている部分があり、実のところ『村を裏切る覚悟』など決まっていなかった――――
「もしかして、案内する気、なくしちゃった?」
「え?」
「もうここまで来たし、それなら……」
「すすす、する! 案内するから!!」
――――血塗られた切っ先を見て、サンボは改めて賊の側につく。彼も猟師としてそれなりに戦えるのだが、それに反して心は弱く、何より信念が無かった――――
「そうか。それならいいんだ」
「お、おう……」
「ハハハ! まったく、チョロい仕事だぜ!!」
――――村長宅は土地や建材がタダで手に入る事もあり、それなりの豪邸なのだが…………当然ながら金めのものなど残っていない。それは当然の事なのだが、世間知らずの野党がキノタの内情を知るはずもない――――
「(どゅふふ……。これで、これでやっとニーナは、俺のものだ)」
「ん? 何か言ったか??」
「ななな、何も!?」
――――サンボはここまで来ても考えない。短絡的で楽観的。村長家の分家であり、多少腕がたつ以外に取りえの無い彼が…………大勢の賊を従え、今、思い人が寝ているであろう村長宅につづく坂道を登っていく――――
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