#042 クロノ暗殺作戦③

 ――――交易所は3階建ての建物で、1階は受付や事務室、2階は商談室、3階は資料室となっている――――


「よし、ここまで来れば安心だ」

「しかし、農村とは思えない光景だな。ここって、出来たばかりなんだよな?」


 ――――3階の屋根に登り、賊たちが周辺を一望する。その場所は道中で見た寂れた農村と違い、夜でも明るく、華やいでいた――――


「おしゃべりは後にしろ。まずは、何か怪しいものを探せ」

「怪しいものってなんだよ?」

「そもそも暗くて、よく見えないし」

「何でもいい。もし防犯結界があるなら、建物の外周を囲むように触媒が配置されているはずだ」

「なんだよそれ。まぁ、探してみるけどさ」


 ――――リーダー格の賊は、施設の規模から魔法的な防衛策が講じられていると考えた。それは正解で、たしかにこの施設には様々な仕掛けが施されている――――


「おい、見つかったか?」

「いや、見つからない。考えすぎじゃないのか?」

「それは、まぁ、用心だからな。無いならそれでいい」

「「…………」」


 ――――リーダーも泥棒として実例を知っているだけで、魔術に関しては素人だ。それでも後付けで設置したものなら見分けられたかもしれないが…………この村には優秀な職人と、高度な魔法知識を有する管理者がいた――――


「ほら、行くぞ。幸い、ここの壁は魔法対策をしていないようだ」

「ははは、所詮、急ごしらえのハリボテか」


 ――――屋上には、出入りするための塔屋が設置されている。しかしリーダーはあえてその扉を使わず、横の壁を魔道具で切り崩していく。扉や窓に防犯対策を施している施設は多いが、壁全体をカバーするのは難しく、慣れた盗賊は壁を破って侵入する――――


「アッサリ入れたな。3階は資料室だっけ?」

「農業の資料なんて、売れるとは思えないな」

「とにかく、事務所まで行って考えよう。どこかに金庫室があるはずだ」


 ――――3階を無視して、そのまま階段を下る。資材の搬入もあるのか、階段は余裕のある作りをしている――――


「ん? 今、なにか変な音がしなかったか??」

「外の音じゃないのか? 俺は聞こえなかったけど」

「あぁ、そうかもな」


 ――――賊はまだ気づかない。すでに防犯システムが起動している事を――――


「えっと、2階は会議室だっけ?」

「閉まっているみたいだな」

「利用者が勝手に出入りしないように、仕切っているんだろ。大したものがあるとは思えない。無視して1階したに行くぞ」

「それもそうだな」


 ――――3階もそうだったが、階段から各階に向かう通路は扉で塞がれている。このような構造は役所やギルドでも見られるため、賊は気にせず1階を目指す――――


「しかし、外、騒がしすぎないか?」

「そうだな。なにか出し物でもやっているのか……」

「「!??」」


 ――――眼の前の壁から漏れでる光に、賊は驚き、狼狽える――――


「おい、なんか開いてねぇか!?」

「しまっ! 罠だ! 逃げろ!!」


 ――――階段の踊り場の壁が、歓声とともに開いていく。それは資材を搬入するための作業用扉なのだが…………問題はそこではない。扉の先には大勢の観客と、何やら池のようなものが広がっていた――――


「何なんだこの村…………うぉ!!」

「すべる!? なんだこの水!!?」


 ――――粘度の高い液体が賊の足を絡めとり、観客が待つステージへと押し流す――――


「5名様、いらっしゃ~ぃ」

「なかなか良い体つきですね~。これは楽しめそうですよ~」


 ――――半裸の男たちが池を取り囲む。彼らは間違いなく男なのだが…………その眼光は飢えた野獣の眼差しであり、その股間はハチ切れんばかりにいきり立っていた――――


「やれぇ! 粛清だ!!」

「くそ盗賊が! 掘られて死ね!!」


 ――――半裸の男たちの背後から、荒々しい声援をおくる商人たち。彼らは娯楽として、男同士の行為を観戦するために集まった。しかしながら彼らは、同性愛者という訳ではない。これはあくまでゲスな娯楽。この世界では単なる処刑も娯楽になっているが、それらは壇上で殺して終わり。場合によっては石を投げたり、磔になって衰弱する姿を見物したりできるが…………死ぬのが分かっていると、なかなかどうして、無様な姿をさらしてくれない。その点キノタは、男の尊厳、つまり精神面を責めるので見ごたえがある――――


「さぁ~、いきますよ~」

「おっと、これは没収だ。使うなら股間こっちの剣にしておけ」

「しまった!? 返せ、この変態!!」


 ――――賊も剣を抜いて応戦しようとするが、全身ローションまみれの状態で上手く応戦できる訳もなく、アッサリ奪われてしまう――――


「「犯せ! 犯せ! お~か~せ!!」」

「やめろ! 何をおったててんだ!? 俺は男だぞ!!」

「何って、見ればわかるだろ? ナニだよ」

「さぁ、君たちは、どこまで耐えられるかしらね~」

「「おぉ!!!!」」


 ――――賊の服が引き裂かれ、その裸体が観衆の視線に晒される――――


「やめろ、それだけは許してくれ! 何でもするから……」

「ん? それじゃあ…………力を抜いて、素直に受け入れる事ね。抵抗して切れると、あとが大変なのよ~」

「やめろ! そこは…………あ”ァァあ!! 女の子に、なっちゃぅぅ!!!!」




 ――――狂気と同性愛者が、賊を襲う。この日もキノタは、朝まで灯りが消える事は無かった――――

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