#041 クロノ暗殺作戦②
「それで、サンボさんよ」
「なな、なんだよ」
「お前、本当にこのままターゲットを襲うつもりか?」
――――賊の集団に馴染めず、少し離れた場所からクロノが居る小屋を監視するサンボ。そんな彼に賊の1人が声をかける――――
「そ、そんなの! 当たり前だろ」
――――サンボはとっさに『人を殺す覚悟の有無』を問われたと思った。彼は猟師であり、言動に反して腕はたつ。人を殺した経験こそないものの、キノタへの裏切りも含めて今のところ嫌悪感は抱いていない。しかし、賊の意図はそれとは違うものだった――――
「まぁ、行きたいなら止めないが…………俺たちは今回のシノギ、本当の狙いは"捨て駒"だと思っている」
「はぁ?」
「(後払いの)報酬が良すぎるんだよ。最初から、払うつもりがない証拠さ」
――――賊は賊なりに、知識と勘がある。今でこそ帰る街を失い、世事に疎くなったが…………それまでは冒険者や、中にはマフィアだった者までいる――――
「わわわ、罠だと思うなら、なんで依頼を受けたんだよ!」
「最初から分かれば苦労は無いが、そうもいかないだろ? それに俺たち、気楽に見えて案外シガラミの多い生活をおくっているんだ」
「それは、まぁ……」
「それで、相談なんだが……。……」
――――賊が提案した作戦はシンプルだった。クロノでは無く、村を襲ってそのまま逃亡する。商会からの報酬は無くなるが、村に蓄えられた金や女は手に入る。それを元手に、彼らは他領地へ逃亡する計画なのだ――――
「お、女……」
「商会を信じるヤツは、そのままターゲットを襲ってもいい。人数が減れば、素直に報酬を払ってくれるかもしれないしな」
――――報酬は、ある程度人数が減ることを見越してのものかもしれない。生き残りは口封じする予定だったとしても、優秀な人材は正式に雇ってもらえるかもしれない。ほかにも仲間の裏切りによって作戦が未達成に終わったらどうか? 商会としては"次の手"を計画しなくてはならないので幾らか渡して『次回も頼む』となる流れもありえる――――
「村って、どどど、何処を襲うつもりだ!?」
「今のところ、ターゲットを襲うグループ、村長宅を襲うグループ、交易所を襲うグループの3つに分かれているな」
――――賊はクロノの恐ろしさを噂程度にしか知らない。そしてキノタの地理や、交易所の防衛体制も知らない。彼らとしては、サンボはそろそろ"用済み"なのだが…………彼らも寄せ集めであり、グループごとに得意分野や思惑に違いがあった――――
「おおお、襲うなら! 村長の屋敷がいいぞ! 案内するから、かわりに女をくれ!!」
「…………」
「えっと、交易所の場所とか、警備も教える! そそ、そうだ! 若い女がいっぱい居る宿舎もあるんだ! そこも教えるぞ!!」
――――躊躇なく村を売るサンボ。彼は村を追われこそしたが、現在は『クロノを暗殺してくれる者たちを連れてきた』ことにより再度受け入れられている。商会からも、報酬として奴隷解放(の手続き)が約束されているので、このままクロノを殺せば元の生活を取り戻せるのだが…………彼の短絡的で浅ましい頭脳は、それ以外の思考を停止させていた。(とはいえ、童貞なので自分よりも経験豊富な娼婦や、
「よし! それじゃあ決まりだな。どうやらターゲットも、ようやく寝てくれたようだ」
――――小屋の明かりはすでに消えている。村民を使って酒の差し入れもしたので、もうしばらくすれば無防備な状態を襲えるはずだ――――
*
「これが村の夜の光景か?」
「娼館もあるって話だからな」
「ここまで発展していたとは。商会が煙たがるのも頷ける」
――――草むらから交易所を観察する賊たち。しかしながら、そこに隣接する開発エリアは人であふれ、その賑わいは衰える様子を見せない――――
「もう少し待つか?」
「いや、この調子だと落ち着くのは何時になるか。
――――彼らは現金が手に入る交易所を選んだ者たち。最も警備が厳重なエリアではあるが、この先、現金はあって困る事は無い。何より彼らには、盗みに関する経験と自信があった――――
「それじゃあ、陽動は無しか?」
「そうだな。火を放つのは最後だ」
――――初期の作戦では、村を焼き討ちして、その混乱に乗じてクロノを殺し、そのまま金や女を奪う予定だった。しかし今は、班を分けた事もあり、泥棒としての腕を見せる方針となった――――
「それじゃあ、行きますか」
「久しぶりに、腕がなるぜ!」
*
「はぁ~。人ってもっと、信じられるものだと思っていたんですけどね」
「アイツが裏切るのなんて、目に見えていたっていうか、納得しかないです」
「いや、一般論の話で、私も彼は……」
「むしろあんなヤツまで信用するなんて言い出す人が居たら、私は軽蔑しますね」
「そうね。信じていいのは裏の無い人でも無ければ、裏まで見えている人でもない。裏切られてもいいと、思える人だけなのよね」
「「…………」」
「それ、クロノ様の受け売りですよね?」
「ぶっ!!」
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