#040 クロノ暗殺作戦
「はぁ~。う~。大丈夫かな……」
「そろそろ休憩にしてはどうですか?」
「え? いや、まだそんな時間じゃ」
「でも、先ほどから全く進んでいませんし」
「ぐっ」
――――書類仕事に勤しむニーナを、護衛の少女が気遣ってお茶をすすめる――――
「繰り返しになりますけど、
「それはそうだけど……」
「もしかして……」
「??」
「不安な理由は、クロノ様に会えないから、だったりして?」
「なななな! そんなことぱ!!」
「ぱ?」
「「…………」」
あれからクロノ様は、ハーレム邸建設のために裏山に寝所を移した。村での仕事もそれなりにあるので、完全に山籠もりしている訳ではないが…………賊の誘導のため、あえて人気のない場所に身を置いている。
「気持ちは分かりますけど、憂いでいても書類は減りませんしね」
「はぁ~。せめて体を動かす仕事なら、気持ちも紛れたんだけどなぁ……」
口にはしないが、悩みはもう1つある。それは…………事がおきれば、多分、人が大勢死ぬ。攻めて来た賊は当然として、その時に逃げ遅れた人。そして賊の側についた人たちは処刑されることになるだろう。クロノ様はその犠牲を容認しているし、なにより村が生まれ変わるのに、その犠牲は必要なものだ。
そう、犠牲は出なければならない。血統や仕来りを脳死で信奉する人たちの意識を変えるには、奴隷落ち程度では足りなかった。実際に生命の危機を体験し、如何に自分たちの考えが間違っていたのかを体感してもらう。もちろん、それでも仕来りと心中する事を望む人は出てくるだろうけど…………そういう人たちは、この機会に心中してもらわなければならない。
「それならいっそ、剣術でも学びますか? 護衛は我々が居ますけど、短剣でも、人並みに使えて損は無いかと」
「剣は…………ちょっと」
上に立つ者には、相応しい能力と良識が必要だ。しかしながらそれでは足りない。最良を選び続けても、どこかで対処しきれない理不尽に道を阻まれてしまう。そんな時に必要なのが"非情な決断"であり…………私はもうすぐ、それをしないといけなくなる。
生まれ育ったこの村の人たちを、父さんが必死に守ってきたキノタを…………私は切り捨てる。
「それなら、料理はどうでしょう? 料理なら私も教えられますけど」
「うぅ……。それは、教わりたいかも」
最終決定権はクロノ様にあるけど、それをクロノ様のせいにする事なく。私は私の意思で、彼らを
*
「そろそろ職人が引き上げる。たたた、ターゲットは小屋に泊るから、寝静まったところを襲うぞ」
「へいへい」
――――林に潜み、建設現場を観察するサンボと賊。当初は交易所を襲う予定だったが、ターゲットのクロノが邸宅の予定地で寝起きするようになり、警備の甘いこちらを狙うこととなった。彼らの目的は"金銭"であり、流れ者の野盗のフリをしてキノタを襲う計画であったが…………スポンサーであるオミノ商会が"最優先目標"に指定したのがクロノであり、まずは彼を闇討ちする計画で動いている――――
「おぉ~ぃ、メシを持ってきたぞ」
「おっ! ありがたい。何も用意されていないから……。……!」
「…………」
――――リーダーであるサンボを差し置いて、差入れを持ってくる村民に尻尾をふる賊。その姿を見てサンボの不満が膨れ上がる。しかしそれは無理からぬことであった――――
「それで、すぐに攻め込むのか? それとも明け方まで待つのか??」
「そそ、そんな事! 部外者に言えるわけないだろ!!」
「いや、明け方に仕掛けるなら、夜食が必要になるかと思って」
「ぐっ!? そ、それは……」
――――本来ならこのような作戦では、雇用者が景気づけに酒や女を振る舞い、成功後は(追加の成功報酬として)扱いに困る戦利品(食料や女)の山分けが行われる。しかしながらオミノ商会やサンボがそんな作法を知るはずもなく、賊もこの依頼が"ハズレ"である事を早々に察していた――――
「おっちゃん。気持ちは嬉しいけど…………これ以上はターゲットに感づかれる。だからもう差入れはいいぜ。あんがとな」
「そうかい。それじゃあ、頼んだぞ」
「…………」
――――作戦は深夜。クロノが酒を飲み、気持ちよく眠ったであろうタイミングを狙う――――
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