#028 村民が求めるもの
「諦めるのはまだ早い! 村の者が一丸となれば、この危機も乗り越えられる!!」
「「おぉーー!!」」
――――今日も集会所に集まる村民たち。自身が奴隷落ちしていた事にようやく気付き、表立った抗議活動は休止したが…………それで納得できるはずもなく、彼らは新たな抗議手段を議論していた――――
「それで、村を出ている若い連中の反応はどうだ?」
――――彼らは以前から手紙で、村を出た縁者に助力を求めていた。村を出ていた者たちの中には、有力者の家に嫁いだ者もおり、加えて村同士の繋がりもある――――
「まだだ。もしかしたら、どこかで止められているのかもしれん」
――――しかしながら色よい返事はかえってこない。遅れる理由は、相手が領主や法律・奴隷制度なので仕方ない部分のあるが…………手紙を受け取った相手からすれば『どう考えても手遅れ』、受け取った手紙を無かった事にして知らぬ存ぜぬでやり過ごしたい事案であったからだ――――
「事が事だからな。やはり"サンボ"に行ってもらうか?」
――――サンボとは、村の猟師で、村長一家の分家の血筋にあたる。彼なら獣道を使い秘密裏に村を出られるので、直接相手に会って交渉する事も出来る――――
「その…………ダメだと思いますよ」
「なぜじゃ!?」
――――恐る恐る異論をとなえるのはニーナ。彼女は本来ならば村人を率いる立場だが、未成年の少女であり、何よりクロノを擁護する発言を繰り返していたため、村民の態度は冷ややかになる一方であった――――
「どうやってその街に入るんですか? 許可証が無いと、大事になりますよ」
「それは…………警備の甘い村なら!」
「いきなり余所者がやってきて、噂が広まらない村は無いかと」
「「…………」」
――――村と言っても、賊や魔物への警戒はしている。それが無くとも、村の情報伝達速度は軽視できないものがある。その日のうちに情報が共有され、役人やクロノに情報が漏れてしまうだろう――――
「やはり、"アレ"でいくしかないだろ」
「そうだな」
――――彼らが考えた作戦は3つ。1つ目は、村を出た縁者に協力をあおぐ作戦。これは今でも続けているが、反応は芳しくない。そして2つ目は『スパイ作戦』。対立派の中から"共和派"としてクロノに協力する者を選抜し、情報収集や工作をおこなうのだ――――
「癪だが、たしかに死神は甘い部分がある。煽てるのはイイ考えだ」
「お嬢!」
――――共和派を仕切るのはニーナ。彼女は村長代理として接点もあり、スパイとしては申し分ない立場にある――――
「うぅ、その、頑張るけど…………くれぐれも無茶はしないでね」
――――しかしニーナは、すでに志を曇らせていた。故郷を取り返したい気持ちはあるが、クロノは売りに出された村の権利を買っただけ。真の問題は村民を騙して村を売った兄や母であり、財政破綻したキノタにある。加えて、奇跡が起きてクロノを排除できたとしても、それで状況が好転するとは思えない。むしろクロノは、権力者の中ではアタリの部類。このままクロノに村を託したい気持ちが勝っていた――――
「分かっているって。さて、もう遅いからそろそろ解散するべ」
「おぉ、そうだな」
――――集会が終わり、集まった者たちが席を立つ――――
「あぁそうだ。このまえ言ってた苗の話だけど。……あぁ、こっちは気にせず、先にあがってくれ。オラたちは……。……」
――――数人が残り、話が続けられる――――
*
「帰ったか?」
「あぁ、大丈夫だ」
――――皆が集会所を去った後、扉越しに見張りが周囲の状況を内部に伝える――――
「よし。皆、分かっていると思うが、この話は秘密だ。絶対に他には漏らさぬよう」
「わかってるって」
「おうさ!」
――――そして3つ目の作戦は『ニーナに、都合の良い次期村長を産ませる』作戦であった――――
「死神は村に興味を持っていない。お嬢の言う通り、それは間違いないだろう」
「しかし、だからって金のために余所者に村を託して、それでどうやって
「「そうだそうだ!!」」
――――実のところ彼らも、クロノに従うのが最善なのは理解している。しかしながらそれでも従えないのは、彼らが『人の繋がり』を重視するからであり、金や結果的な最善は求めていない。それが幾ら険しい道のりになろうとも、村民が一丸となり、村民の力でこの危機を乗り越える。それが彼らの信念であり、目標なのだ――――
「だからお嬢には、なんとしてでも村の男児を孕んでもらう」
「男なら結婚のしようが無いからな」
――――彼らの考えはハッキリ言ってズレている。確かに血統は村を治めるうえで重要だが、領主からすれば知った事では無い話。しかしながらそれでも、彼らにとってソレが最も重要なのは変わらない。だから彼らは『ニーナがクロノの子供を孕む前に、村民の種で"長男"を産ませる』考えに至ったのだ――――
「問題は、お嬢が了承するかだが……」
「怪しいだろうな」
「だな」
――――古い考えに支配される彼らだが、それでもニーナの心変わりは感づいている。一応、直系なので立ててはいるが、それでも彼らにとってニーナは血統を守るための器にすぎず…………何処までいっても(村長ではなく)"お嬢"止まりなのだ――――
「それで、誰の種にするんだ?」
「やはりサンボだろう。歳も近いしな」
――――そして彼らからすれば、本人の意思などどうでもいい話。いや、村の繁栄こそが村民の幸せであり『それがニーナの幸せに繋がる』と、本気で考えているのだ――――
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