#026 財政破綻した農村・キノタ②

 ――――キノタ村は、キノタ丘陵という小さな山や台地があつまる土地で、その傾斜や水源を活用した農業で栄えた村だ。しかしながら近年では不作や高齢化の影響で、年税(年に一度、領地税や国税が請求され、それと引き換えに住民権が更新される)を滞らせる村民がでるようになった――――


「やはり地方だと、シワ寄せと言うか、無理難題を押し付けられてしまうのでしょうか」

「いや、税金はむしろ安い部類だな」

「え? それでは何故??」


 ――――時は少し遡り、クロノとアイリスが事務所でキノタ村の資料に目をとおす――――


「一言で言えば"お人好し"だな。次々と出てくる問題(負担)を、村長が片っ端から肩代わりしていったんだ」

「えっと…………つまり、伝統や村民を守るのを優先して、問題をそのまま放置したと」


 ――――当時のキノタ村の村長は、貯えを取り崩す形で村民を守り、破産者を出さずになんとか村を維持した。それは当事者からは絶賛されたが…………結局のところそれは場当たり的な対処に過ぎず、根本的な問題は何一つ解決してこなかったのだ――――


「一応、節約や骨を折る事で何とかしのいでいたようだが…………そのせいで改革派の妻や長男と揉める事になったようだな」

「その、節制で乗り切るにも限界がありますからね」


 ――――村長家に嫁いできた村長夫人は、当然ながらキノタに思い入れはなく、数少ない改革派となって変革を訴えた。しかしながら所詮は余所者。村長や村民に押しきられる形で何も変えられずにいたが…………幸いな事に生まれた第一子の"イーワン"は母親に懐き、成長と共に母親の意見が聞き入れられる雰囲気が出来上がっていった――――


「まぁ、村長も努力や団結で何とか村を維持していたのだから、それはそれでいいのだろうけどな」

「あぁ、そう言えばその時点では、まだ村は破綻していないんでしたね」

「結果として村長の判断は正しかった。いや、悪いのは改革を失敗したイーワンなのだろうが」


 ――――なんとか現状を維持していたキノタだが、村長派であった第二子のニーナの留学に合わせて、次期村長のイーワンに村の仕事が徐々に託されていった。そしてキノタの財政が本格的に赤字に転落したのもココからとなる――――


「村の経営改革ですからね。その、上手くいかない事もあって当然なのでしょうけど……」

「大口叩いた結果が破綻だからな。資金やコネの問題もあるのだろうが…………実力に対して自己評価が高過ぎるヤツに任せると、大抵はこうなるって話だ」


 ――――村は改革に伴う負担に耐え切れず、財政を大きく悪化させてしまった。そしてトドメとなったのが『村長の失踪』。それは村の乗っ取りと噂する声もあったが…………暫定的に村を継いだ『イーワンは即座に村の破産手続きをすませ、後を追うように失踪』してしまった。結局、当事者が全て失踪してしまい、事件は闇の中。現在は留学していたニーナが呼び戻され、村を取り仕切っている――――


「そしてその権利を買ったのが、ご主人様なんですね」

「買ったというか、押し付けられたというか……。もう少し、問題の少ない土地にするつもりだったんだがな」


 ――――そして、村の運営は領主が監督する事となっていたところに現れたのがクロノとなる。ハーレム用地を探すクロノに対し、領主は問題の有る村を"褒美"と称して押しつけたのだ――――


「村外れの一画と思っていたら、その地域を纏めてですからね。破格なはずです」

「庭付き一戸建て。ただし庭には近隣すべての土地と村が含まれる、だからな」


 ――――2人の乾いた笑いが響き渡る。クロノとしても、この話が怪しすぎるのは理解していたが…………それでも増えたクロノ一派を支えるのに充分な土地と権利を前に、半ば押し切られる形で合意してしまった――――


「むしろ費用を請求したいくらいですね」

「まぁ、村に興味はないから、その辺りはその娘に任せるさ。学費免除になるくらいには、優秀だって話だ」

「頭、イイんですね」

「(地方の農村とは言え)権力者の娘って肩書は、学園にとって見れば垂涎だからな」

「あぁ、学園や街からすれば、良い宣伝になりますからね」


 ――――第二子のニーナは、財政状況の悪い村長家に生まれ、そこに加えて周囲や婚約者候補にも恵まれず、それらから逃げるように勉学に励んだ。その結果、学費免除で受け入れてくれる学園に巡り合い、明るい未来が見えかけていた。しかしながらその道も、この騒動で"中退"となり閉ざされてしまった――――


「そういう事。おっと、もうイイ時間だな。続きはまた今度」

「はい!」




 ――――こうしてクロノたちはキノタ村を丸ごと手にし、ハーレム計画は準備段階から実行段階へとシフトした――――

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