後編
#025 財政破綻した農村・キノタ
「とにかく! オラは反対だ!!」
「そうだ! こんなのただの乗っ取りだろ!!」
――――村の集会所では、今日も村民たちが決起集会を開いていた――――
「えっと、それで具体的には……」
「それはもちろん! …………なんだ?」
「だ~か~ら~。連中に逆らって……。……」
突然だが私の故郷である、この"キノタ"村は…………財政破綻により潰れてしまった。
現在は派遣される指導者に従う形で再建される事になっており、住民や既存産業は(今のところ)変わらず残っているけど、それもその人の判断次第となる。
「この村は先祖代々受け継いできたものだ。残されたのはもう、お嬢だけだが…………まだ! 終わっちゃいない!!」
「「そうだそうだ!!」」
私の名前は"ニーナ"。唯一この村に残っている村長家の直系であり、暫定的に代理で村長を任されている。しかしながら突然キノタが破綻したと知らされるまでは(他領地に)留学していたので、実のところ詳しい事情は私も分かっていない状況だ。
(補足、近況ノートにてニーナのイメージイラストを公開しております)
「お嬢だって嫌だろ!? どこの馬の骨ともしれないヤツと、無理やり結婚させられて」
「それは……」
雰囲気的に言い返せないけど、正直なところその辺りは気にしていない。私はもとより村長家の娘として政略結婚が決まっていたので、それが別の人に代わっただけ。正直なところ、予定していた相手はちょっとアレだったので、むしろ助かっているまである。
「それに、その送られて来るヤツ、噂じゃ相当のワルだって話じゃないか。完全に村を潰す気だぞ!」
「その、私としては…………まず、その人に会ってからかなって」
村は破綻したものの、だからと言って見ず知らずの人がいきなり村を管理するのは難しく、何より効率が悪い。そのため村長家の血をひく私が、その指導者と結婚する形で(表向きは)円満に村の権利を譲渡する。つまり形式としては、婿養子を迎える形になるのだ。
「甘い! お嬢は……! ……!!」
――――結局その日も何が決まるわけでも無く…………指導者を迎える日がやってきた――――
*
「えっと、始めまして。村長代理のニーナです」
「あぁ、聞いていると思うけど、俺がこの村を仕切ることになったクロノだ。こっちが奴隷のアイリス。他の連中は次の馬車で……。……」
何かの聞き違えだろうか? 今、奴隷を紹介された??
それはさて置き、指導者であるクロノ様の印象は予想よりも遥かに良くて安心した。目つきは悪いものの、体格はよく、何より冷静で知的な印象をうける。ハッキリ言って権力者は真逆のパターンが多く、それが回避できただけで大助かりだ。
「えっと、クロノ様。お疲れでしょうから、とりあえず集会所にご案内します。細かい話はそちらで」
「いや、悪いがそんな暇は無い。すぐに設営にとりかかり、一刻も早く"
体格はともかく、『権力者なら頭はそれなりに良いのでは?』と思うかもしれないが、こんな辺境を任されるのは扱いに困ったドラ息子と相場が決まっており『何もしない、何も分からないけど偉そうに成果だけを求める』可能性が非常に高かった。その点、領主様も本気でキノタを改善しようと考えてくれたのか、クロノ様は実力主義のヤリ手と言った印象だ。
ちなみにこの交易所は、村に来る行商人と取引を行う商業施設なのだが…………建設途中で資金がつき、現在は放置されている。
「その、お言葉ですけど……」
「ん?」
口が勝手に動いてしまった。この人は貴族では無いらしいけど、それでも身分差のある人に口ごたえするのは危険だ。
「その、なんでもありません」
「気にするな。言え」
「えっと、それでは……。……」
次の馬車から職人っぽい人が下りてくる。その光景を横目で観察しながら、私は交易所計画がとん挫した経緯を語る。
「その事なら知っている」
「え?」
「この村に来たのも初めてではない。すでに充分な下見と、根回しは済ませてある」
「その、失礼しました!」
やはり、この人は"出来る人"のようだ。留学中、私は2種類の権力者を見た。1つは財産や権力にすがるだけで汗を流さない人。もう1つは、目標や実力をもってひたむきに行動と努力を重ねる人。
そしてこの人は後者であり…………この村は前者だった。
「気にするな。農民の管理は今まで通りソッチに任せる。こっちのやる事を邪魔さえしなければソレでいい」
「はい。その、よろしくお願いします」
村の人は血脈至上主義であり、余所者に手を借りる事自体に拒絶反応をしめしている。しかしながら私は、村を良くしてくれるのなら誰でもいいと思っている。なにせこの村が破綻したのは…………その掟に従って村長となった、適性の無い人たちの責任なのだから。
その点クロノ様は『クソ真面目な仕事人間』なので大当たり。これなら"あの人たち"に無茶苦茶にされたこの村を立てなおしてくれるだろう。
「さすがにお尻が痛くなっちゃったわね。ちょっと叩いてくれる?」
「いや、なんで追い打ちを……。……」
――――安堵したニーナを嘲笑うかのように、次の馬車からあきらかに毛色の違う女性陣がおりてくる――――
「えっと、あの人たちは……」
「ん? 聞いていなかったのか? ここを娼館にするんだよ」
「ふぇ?」
「あと、孤児や浮浪者も連れてくるから」
「ふぇぇぇぇぇえーーーー!!」
――――その日、穏やかなキノタ村に…………ニーナの奇声が木霊した――――
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