#018 行商人特区・一般出店エリア

「オ、お食事はコチラでス」

「お席へご案内、イタ、します」


 ――――未成年の少女たちが華やかな衣装を纏い、ギコちなく接客する。ここは街の外周にある行商人専用区画(行商特区)の一般出店エリア。この地域を通過する商人は、この街に関税を納めなければならないのだが、この場所はその手続きや補給などのサービスを略式で済ませられる場所となる――――


「はぁ~。みんな、大丈夫でしょうか」

「心配しすぎだ。大した仕事は割り振っていないし、街の中に比べれば遥かに安全だ」


 さっきからクソデカ溜息を連発しているのは、娼婦に変装したシアン。いや、変装と言っていいのか? 思いっきり顔を晒しているが…………残念ながら本人のスタイルの良さが災いしてマゼンダの服が似合い、娼婦にしか見えない。まぁ、そもそも修道服は髪すら見えない構造なので、下手に隠さず印象だけかえる作戦で行くことにしたわけだ。


「それは、そうでしょうけど……」

「出来ないなら、娼婦でも何でも、出来る仕事を割り振るだけだ」

「それが! 1番の心配なんです!!」

「お、おぅ」


 行商特区の一般出店エリアの利用権はマフィアが買い占めていたのだが、今回、売りに出た利用権の幾つかを買い…………日本のフードコートのような商売をし、その管理をスラムの浮浪者や孤児、そして俺が購入した子供たちに任せることにした。


 当たり前の話だが、奴隷は買うにも養うにも金がかかる。おまけに仕事量に合わせて自由に人数を調整するのも難しいので、実際のところ奴隷はそれほど便利で節約につながるものではない。話がそれたが要するに、ハーレムを維持するには黒字化できるシステムを整えなければならないって話だ。


「おぉ、可愛い子がいるじゃないか」

「なかなか仕立ての良い服だな。子供には不釣り合いだろ」

「商人が何言ってんだ。金さえ出せば、誰が何を着ようと勝手だろ?」


 ――――用意された共用テーブルで、見え隠れする絶対領域を眺めながら商人が食事を楽しむ。食事の購入や配膳は一般的な屋台通りと同じで購入者がおこなう形式であり、少女たちの仕事は簡単な案内や後片付け、そしてもう1つ、とある冊子の配布の3つとなる――――


「しかし、一気にサービスがよくなったな」

「まぁ、たどたどしい部分もあるけど、この歳ならこんなもんか?」

「むしろ初々しくて良いじゃないか」

「おい、そこの嬢ちゃん、チップをやるから酌をしろ」


 飲食店に限った話ではないが、商売としてやっていくには様々な能力・適性が求められる。だから飲食店なら料理の才能"だけ"では失敗する。いや、むしろ料理の腕は並みで充分、重要なのは経営能力の方だ。とくにこの国だと、商才の無いヤツはすぐに騙され、食いものにされてしまうのだから。


 そこで今回俺は、浮浪者や孤児に極力1つの仕事に専念できる職場を提供した。屋台の料理人なら料理を作るだけ。接客や配膳の必要は無く、会計も受付で事前に木札を購入し、それを同価値の料理と交換する形にした。珍しいシステムなので不満の声もあるが、前払いなのでボッタくられる心配はなく、余計なサービス料(チップ)も発生しないので、(節約志向の強い商人が利用している事もあり)支持される声の方が大きい。


「その、ごめんなさい。規則で接待はデキないので…………かわりに、"コレ"を」

「なんだこれ?」

「えっと……」

「ほら、出番だぞ」

「うぅ、死にたい」


 ――――泣き言を言いながらも娼婦・シアンが説明に入る。このエリアで許可されている商いは、飲食や日用品に限られており、性的サービスの提供は許可されていない。しかしながら街の中にあるグループ店を斡旋するのは許可されており、そのグループ店が娼館だったと言う話なのだ――――


「えっと、一般出店エリアココでは飲食店を経営していますが…………本業は娼館なんです」

「「えぇ!?」」

「娼婦の派遣も受け付けており…………そ、その際は、今、彼女たちが着ている制服や、コチラの冊子にある衣装を指定できます」

「「おぉ!!」」


 ――――冊子には様々な衣装が記されており、下着の形状や色まで選べる。そこに加えて、冊子に印刷された簡単なイラストが、長旅で性的刺激に飢えた商人の本能を刺激する――――


「いや、でも、考えてみたら…………脱がしたら終わりじゃね?」

「そ、それは……」

「分かってない!!」

「「!!?」」


 ――――1人が突然、テーブルを叩きながら立ち上がり、その胸の内に秘めた熱い拘りを語る――――


「最終的に脱がすとしても、そこに至るまでの流れは重要だ。それに! 脱がさない事も選べるんだろ? ソックスとか、ソックスとか、ソックスとか!!」

「え? あ、はい。破損されると弁償になりますが、弁償して貰えるなら引き裂いても……」

「ソレを早く言え!!」

「「!!!!?」」


 ――――もう1人が突然、テーブルを叩きながら立ち上がり、その胸の内に秘めた熱い拘りを語る――――


「引き裂かれ、こぼれ落ちる乳房! 裂け目からハミ出す太ももの肉感! あ、あと…………ショーツはそのままお持ち帰りも、できますか? 洗わずに」

「はい、使用済み下着の販売も手掛けています」

「「よっし!!」」

「…………」


 シアンはイマイチ理解できずにいるようだが、男のエロに対する情熱をバカにしてはいけない。中には高い収入や地位を捨て、理想のハーレム作りに全身全霊を注ぐバカだっているほどだ。


「あぁ、ムラムラしてきた! 姉ちゃん! 今から出来るか!!?」

「いや、私は!?」




 ――――クロノの事業はウケ、その規模と人員を着実に増やしていった――――

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