#015 教会

「本日はお呼び立てしてしまい、申し訳ありません」

「いえ、それは構わないのですが……」


 呼び出されて孤児院に来たのだが、何とも院長の様子が変だ。一応、孤児を購入する計画は進んでおり、そろそろ本格的に動き出せるところまで来たのだが。


「それが、その…………お呼びした理由は、孤児の件ではなく」

「それはつまり、冒険者としての俺に、何か御用があると?」

「そういう事になります」


 この街に来た当初は冒険者として活動していなかった事もあり、俺の素性は知られないまま動けていた。しかしながらマフィアの一件以降は見事に知れ渡り、各種ギルドマスターが菓子折りをもって押しかけてくる展開になってしまった。もちろんコレはただの挨拶で、基本的に依頼を受けるつもりは無い。


「お聞きしましょう。第一線から退いた身で宜しければ」

「助かります。それで……。……」


 話を纏めると、どうも教会本部に押し付けられた厄介者を"どうにか"したいそうだ。そんなもの、日本じゃあるまいし問答無用でクビにすれば済む話だろ? っと思ってしまうが、どうも事情は複雑らしい。


 話は逸れるが、教会の運営は真っ黒だ。表向きは正義や信仰を謳っているが、中身はお布施や補助金を集める悪徳宗教であり、この街の教会も裏側は真っ黒。そのあたりは正直どうでもイイのだが…………その厄介者は"比較的"綺麗な活動をしている王都育ちのエリートで、本部は『黒く染まる資質無し』と判断して、左遷処分とした。(日本で言うところの窓際送り)


「先に言っておきますが…………もし殺しを頼む相手をお探しなら、他を当たってもらいたいですね」


 俺の異名は死神。対人戦や権力絡みの厄介な依頼を幾つもこなしてきたが、それでも俺は冒険者。殺し屋でも無ければ傭兵でもないので、人殺しメインの仕事は受けていない。


「ココだけの話、そう言った話も出ているのですが…………私"は"、そこまでは望んでいません」

「つまり、そこまでを望む派閥も、存在すると」


 なんとも中途半端な考えではあるが…………考えてみれば俺も同じようなもの。孤児は買いたいので今の状態を維持してほしいが、だからと言って意に反する良識人を殺そうとまでは思わない。そんな事をすればブレーキを失い、現状維持どころか状態は悪化してしまうだろう。大切なのは"住み分け"であり、多様性を認めて、適切な距離感を維持する事なのだ。


 それにその厄介者の背後には、ソイツを後押しした良識系の派閥がいるはずだ。今は転勤の形で有耶無耶になっているが、殺しとなると事が大きく動く可能性もある。


「はい、残念ながら。私としては、出来るだけ穏便に解決したいのです」

「なるほど。それなら、こう言うのはどうでしょう?」


 ――――教会は一枚岩ではない。そしてこの街の裏組織もまた、現在、複数の勢力が渦巻いていた――――





「ぐへへ、お嬢ちゃん、ここはお嬢ちゃんみたいな若い女が来ていい場所じゃないぜ」

「おぉ、なかなか上モノじゃないか。こいつは楽しめそうだ」

「くっ、近づかないでください。それ以上近づけば、攻撃しますよ」


 ――――人気の少ない路地裏。そこにはシスター・シアンを取り囲む悪漢の姿があった――――


「そんな棒っきれで何ができるって?」

「知ってるぜ。教会は攻撃(放出系)魔法を教えないんだろ?」


 本当に、この街に来てから私の運気は最悪だ。私だってこの辺りが危険なのは雰囲気で察していた。しかし、神父様に使いを頼まれてしまったので仕方ない。一応、充分に警戒していたつもりなんだけど…………どうにも、相手の方が一枚上手だったようだ。


「苦手で…………もッ!!」

「「グァ!? 目が、目がぁぁ!!」」


 たしかに教会は攻撃魔法を教えていない。しかしそれでも、身を守る手段はある。その中でも得意なのが<ライティング>だ。手の中に貯め込んだ光を一気に放てば、閃光も立派な武器になる。


「おっと、こっちは行き止まりだ…………ぜッ!!」

「しまッ!?」


 ――――隙をついて逃げ出すシアン。しかしながら退路を塞ぐかたちで現れた新手に、あっさり気絶させられてしまう――――


「おいおい、殺していないだろうな? せっかくのオモチャを」

「知るかよ。隙を見せたお前たちが……」

「…………」




 意識がゆっくりと遠のいていき、かわりに辛くも充実していた頃の記憶が蘇ってくる。たぶん、これが走馬灯と言うヤツなのだろう。

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