#012 差押え

「この宿は差し押さえられた! 宿泊する者は、他の宿をあたるように!!」

「「えぇ……」」


 マフィアを壊滅させてから色々あったが…………それはさて置き、車椅子を受け取って宿に帰ると、利用していた宿屋が倒産していた。


「あの、我々はすでに宿泊費を……」

「この宿に残る資産は、すべて役所に帰属する! 不服がある者は役所に申し立てるように!!」

「そんなぁ」


 見たところ宿屋を差し押さえているのは本物の役人。仕入れた情報は、残念ながら間違っていなかったようだ。


「仕方ない。日が暮れる前に代わりの宿を探すぞ」

「せめて、家財道具だけでも……」

「もともと多くは残していない。気にするな」


 部屋には、この街に来てから買い集めたものの大半が残っている。これらは俺の財産であり、宿屋の破産とは無関係。そのため申請すれば返ってくるはずだが…………ハッキリ言ってこの街の役人は腐りきっているので、あまり期待しない方がいいだろう。


「はぁ~ぃ、そこの御二人さん。宿をお探しなら、良いところがあるわよ~」

「「…………」」


 ――――2人の目が思わず細くなる。声をかけてきたのは、淡い桃色の髪、褐色の肌、尖った耳、豊満な乳房と艶やかな肢体、そして何より痴女を思わせる大胆な装い――――(近況ノートにイメージイラストあり)


「"マゼンダ"さん。なぜ、ここに?」

「それは~、宿が差し押さえられているって聞いて」

「相変わらず、耳が早いですね」


 ――――彼女の名はマゼンダ。モグリと呼ばれる非合法の娼婦グループに所属していたものの、管理していた組織の幹部が失脚。それどころか組織自体が壊滅寸前で、現在、リーダー格であった彼女がモグリを束ねている――――


「え~、だって、そこの(宿屋の借金)手形を管理していたの、ウチの組だし~。そろそろかなって」

「えぇ!?」


 アイリスの誘拐事件は、ハッキリ言って出来過ぎていた。俺がこの街に来て大金を使ったのは1回限りであり、誘拐されたのも宿屋。そして調べてみれば、宿屋の店主には借金がありマフィアから取り立てられていた。


「あぁ! 良いところに! お願いです、助けてください!!」

「大人しくしろ! お前はもう、終わりなんだよ!!」

「…………」


 ――――宿屋から飛び出すも、即座に取り押さえられる店主。彼は破産が成立しており、その体は鉱山送りになる事が決まっている――――


「コイツラ、いきなり訳の分からない手形で、無理やり! 必ず返すので、お金を、コイツラを追い返すためのお金を!!」

「あの、ご主人様……」


 ――――同じマフィアの被害者として、同情してしまうアイリス。しかしクロノに、その感情は無い――――


 訳が分からないってのは完全な嘘だ。それは近所に住む者なら皆が知るところであり、マフィアが崩壊した事で一時は有耶無耶になっていた。しかし金を生む借金手形が、そのまま無かった事になる訳もない。


 マフィアのボスは、たしかに役人に通じていた。そしてそのボスを俺は殺した。当然ながら報復を警戒していたが…………結果はむしろ逆。その日のうちに使者が現れ、俺に口止め料を払い、マフィアの拠点も占拠して金銭や権利書などを残さず回収していった。


「なぜ、嘘をつく? マフィアに借金があったのも、忘れてしまったのか??」

「え!?」

「いや、それは…………その、ちゃんと返していたって言うか、その……」

「それに、なぜアイツラは俺が金を持っている事を知っていた? 俺の素性も知らないのに」

「え? それは、私に聞かれても……」

「…………」


 ――――このやり取りを見て、アイリスも事の流れを察する。クロノたちは上客であり、素直に泊めていれば収益に繋がった。しかしながら店主は、宿泊費程度では満足できなかったのだ――――


「もうイイだろう。ほら、行くぞ!」

「待ってください、何かの間違い……! ……!!」


 ――――役人に連行されていく店主。マフィアならまだ、有り金を払い続ける事で許してもらえるが…………役人に分割払いは通用しない。何故なら彼らは、合法的に資産と身体を換金できるからだ――――


「それで、どうするの? ちょっと汚いけど、サービスは、保証するわよ~」

「サービスって」


 ――――スラムに暮らす娼婦が提供できるサービスは1つ。くわえてマゼンダは成人しているものの、仲間の大半は未成年であり、多くの同居人と共同生活を送っている。独占しているわけでは無いが、これも見方によってはハーレムと呼べるだろう――――


「そうだな。世話になるとするか」

「え!?」

「用心棒が1人では、心もとないだろう」

「あ、あぁ……」


 マゼンダは娼婦に限らず、スラムに行きついた孤児の少女を保護している。しかし彼女たちの後ろ盾となっていたマフィアは現在崩壊中。念のためバカ弟子を用心棒として残しているが…………そこにくわえて、ハーレム要員発掘のため拠点をスラムに移すのも良いかもしれない。


「そうと決まれば、さっそく!」

「ちょ、私はまだ!?」




 ――――こうしてクロノたちは、未成年の少女による性的サービスが実質無料で受けられる拠点を手に入れた――――

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