#009 暴力
「それで、例の冒険者はどうなっている?」
「はい。人質をダシに金を用意させている頃合いかと」
――――別室で状況を確認するマフィアたち。この件は高利貸しを担当している下っ端が突発的に拾った仕事であり、上の者が状況を確認すれば粗が次々と浮き上がってくる始末であった――――
「まったく、手間取らせやがって。あのバカ2人はもう仕方ないが…………その宿屋の店主にも、あとで落とし前をつけさせておけ」
「へい!」
――――マフィアは悪党であり、慈悲などは持ち合わせていない。しかしながら野盗と違い、秩序は重んじる。それは街で活動するうえで必要な行為であり…………今回の一件でいけば、役人へのすり合わせや、何より客を襲ってしまった事に対する奴隷商への"詫び"が必要になる――――
*
「そうそう、何せコッチには"人質"がいるんだ」
「……そうか」
「分かったなら大人しく着いて…………フベシ!!?」
――――言葉を発し終わるよりも早く、チンピラがキリモミしながら宙を舞う――――
「おい! 喧嘩だ!!」
「ちょっと! 店を巻き込まないでおくれよ!!」
――――場の雰囲気が一変する。幸いと言っていいのかこの街では、殺し合いは日常茶飯事。観衆たちも慣れた様子で避難する――――
「やってくれたな! お前、俺たちが誰だか、分かって……」
「黙れ」
「ほべぇ??」
――――食ってかかった男の顎が粉砕され、物理的に反論できなくなる――――
「まったく、ダラしないねぇ~」
「…………」
下っ端は思わず返り討ちにしてしまったが…………それは問題ではない。幹部らしきこのBBAが居れば、話は通せるはずだ。
「アンタ、強いんだね。ちょっと、濡れちまったよ」
「そうか。歳をとると大変だな」
「「…………」」
一触即発の状況だが、マフィアが相手ならコレが正解。謝るだの、刺激しないだの、それは事なかれ主義の日本的な発想で、この世界では通用しない。この手の輩は、下手に出れば際限なくつけあがり、骨までしゃぶり尽くしてくる。重要なのは虚勢でも何でも、立場を高くキープする事だ。
「いますぐ組に帰って、幹部総出で詫びを入れに来い。そうすれば……」
「ペッ! ガキが、舐めた口聞いてんじゃないよ!!」
――――彼の顔に唾を吐きかけるBBA。男もいい歳なのだが、それでも、だからこそ年齢の話はナイーブな話題で、BBAは完全に冷静を欠いてしまった――――
「裏には裏のルールがあり、礼儀がある。この程度のバカしか居ないっていうのなら…………それはもうマフィアを名乗るに価しないな」
「だったらなんだ…………へ? ちょま!? ブグッ!??」
――――彼はBBAの頭を掴み、近くにあった樽に顔面を叩き付ける。鼻は折れ、血は噴き出し、焦点も定まらない状態になるが…………それでも彼は止めない。何度も、何度も、念入りにBBAの顔を樽に叩き付け、その顔を赤く染めていく――――
「安心しろ。加減はしているから、死ぬ事は無いだろう」
「フビ! フブ! ヒビッ!!」
「どうした? ブタみたいな声をあげて。もしかして、正体はオークかなにかだったのか?」
「ギャ! ブヒ! ヒビ!!」
「やめ、ろ、それ以上やったら、姐さんが!」
――――倒れていた取り巻きが起き上がり、彼を制止する――――
「まだ自分の置かれた立場がわかっていないようだな。お前たち、いつも食いものにしている虫けらの姿を思い出してみろ」
「シズ! ビヒ! ヒビビ!!」
「だから、こっちには、人質が…………い”るんだって”! だから、やめで…………ぐでよぉぉぉ」
――――壊れた玩具のように不可解な擬音を発し続けるBBA。取り巻きもこの悲惨な状況を見て、ようやく自分が相手にしていたものの危険性を理解する。しかしながら展開があまりにも急すぎたため、適切な言葉が思い浮かばず、無意味な虚勢を張り続けてしまった――――
「とことん、話の通じない連中だな。まぁいい、案内しろ」
「へぇ?」
「ボスの居るところまで。それまでは、生かしておいてやる」
「ぐぅ……。よろしく、おねがい、しま、す」
――――売ってはならない相手に喧嘩を売ってしまった事に気づき、泣きながら膝をついて謝罪する取り巻き。その光景は…………マフィアである3人を差し置いて、明確に彼を"悪"と表現していた――――
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