#007 売春業

「あとは、スラムか……」


 ――――孤児院を出た彼が、この街でもっとも生活環境の悪いエリアに視線を向ける――――


 この街でハーレム要員になりえる人材が居るであろう場所は3つ。奴隷商と孤児院、そして最後は孤児が集まって自活するスラムとなる。


「一応、下見だけでもしておくか」


 しかしながら、スラムに関してはあまり期待していない。と言うのも、スラムの生活は基本的にゴミ拾いと配給で成り立っているのだが…………残念ながら、それでは足りない。


「掴まってたまるかよ!」

「あぁ、クソッ! また逃げられた。あのクソガキどもが」


 ――――するとそこに駆け抜けていく子供と、それを追うも早々に諦めてしまう商人――――


「スラムの子供ですか?」

「え? あぁ。アイツラ、露店に並べた商品を毎度クスねていくんだ。まったく! まぁ…………売れ残りだからイイけどさ」


 ――――アッサリ引き下がる店主。相手は常習犯で、顔や住処はある程度分かっている。そのため罰せようと思えば手が無いわけでも無いのだが…………そこまではしない。何故ならこの街では、暗黙のルールに『夕方まで売れ残った食品は盗まれても通報しない』と言うものがあるからだ――――


 スラムの子供は、足りないものを犯罪行為で補っており、街はその実情を理解し、ある程度までは許容している。別に、この街のルールとして許されているのなら文句はないが…………仕方ないとは言え、犯罪行為を正当化しているヤツの中から、あえてハーレム要員を選ぶ必要性は薄いだろう。


 とは言え、一応、保険で探ってはみるけど。


「よければあの子たちがクスねていったものの代金、立て替えましょうか?」

「はぁ? なんだテメー。怪しいな」

「その代わりに、孤児のグループについて知りたいんです」


 つまりは情報料だ。本来なら酒場で買うのがスジなのだろうが、せっかくなので(情報屋ではなく)現場に居る人にも意見を聞きたい。


「「…………」」

「店の片づけをツレに任せているんだ。そのついでで良ければ」

「交渉成立ですね」


 ――――そう言って彼は、ベルトの隠しポケットから硬貨を取り出し、商人にわたす――――


「おまえ、もしかしてロリコンか?」

「はい?」

「フッ。まぁ、どっちでもいい。アンタ、"モグリの娼婦"を買う場所が知りたいんだろ?」


 どうやらこの店主、俺を『未成年の娼婦を探している余所者』だと思ったようだ。まぁ、当たらずとも遠からずなのが何とも言い難いが…………それはさて置き、売春業は売春ギルドが仕切っており、娼館や娼婦を斡旋している酒場がその窓口となっている。


 しかしながらそれとは別に、売春ギルドに所属しないで売春をおこなうモグリも一定数居る。モグリは基本的に未成年の孤児か訳アリで、手を出すのは憚られるのだが…………娼館で働かせられない年齢の子供や、娼館では頼めない危険な行為を求める者には最後の砦となっている。


「まぁ、そんなところです」

「それなら…………あぁ、アレだ。あそこのネエちゃんに、声をかけるといいぜ」


 ――――店主が指さす先には、歳はイっているものの大胆に胸元の開けたドレスの美女。そこだけ見れば娼婦ととれるが…………その背後には強面の男2人を引き連れており、別の印象を放っている――――


「アレ、ですか」

「口の利き方には気をつけろよ。アイツはここいらを仕切っているマフィアの幹部だ。敵に回したら命は無いぜ」

「ご忠告、感謝します」


 ――――マフィアがモグリを仕切るのは、よくある話。娼婦としても仲介料を取られるのは惜しい話だが、それでも後ろ盾が無ければ生き抜く事すら困難だ――――


「それじゃあ、上手くやれよ!」

「あぁ、はい」


 ――――卑猥なハンドサインを掲げて、店主が切り盛りする露店へと戻っていく。するとそれと入れ替わる形で、取り巻きの男たちが駆け寄ってくる――――


「やっと見つけた!」

「探したぜ、まったく」

「??」


 何やら様子が変だ。マフィアと事を構えた覚えは無いので…………あるとしたら冒険者絡み、『特別なクエストを依頼するために、わざわざ隠居状態の俺を探していた』ってところだろうか?


「お前だろ? 手足の無い奴隷を連れ歩く冒険者ってのは」

「ん? あぁ、それなら俺だろう」


 しかしそれなら、なぜ俺の名を知らない? 自慢じゃないが、俺は有名人で、ギルドではわざわざギルドマスターが応接室に案内して対応するレベルだ。


「ヘヘッ。地味だが、なかなか良い装備じゃないか」

「これは、期待できるな」

「…………」


 言動は野党と変わらない。いや、マフィアなのだから当然と言えば当然だが……。


「お前たち、口の利き方には気をつけたほうがいいぞ」

「お~、怖い怖い。おしっこチビっちゃいそうだ~」

「…………」


 お道化て見せる命知らず。本来なら問答無用でシメているところだが、相手はマフィアなので"回避"の方向ですすめる。いや、まぁ、敵対してもかまわないのだが…………一応、マフィアとして、モグリやスラム、さらには奴隷業関係にも顔がきくはずなので、穏便に済ませたほうがいいだろう。


 あくまで、出来ればの話だが。


「多少できるようだが、凄んでも無駄だぜ?」

「そうそう、何せコッチには"人質"がいるんだ」

「……そうか」




 ――――彼らはマフィアであると同時に、人攫いであった――――

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