#003 ハーレム候補
「うぅ……」
「起きたか。体調はどうだ?」
――――差し込む陽の光に、少女の意識が呼び起こされる。あれから2日が経過し、2人の生活はいくらか落ち着きを見せていた――――
「はぃ」
体調を問われた際の切り返しとして『はい』は不適切だと思うが…………ひとまず問題は無さそうだ。
「まぁいい。食べれそうだったら食べろ」
「はぃ」
ベッド横の机に粥が入った皿を置く。相手は片腕であり、本来ならば食べさせたほうがいいのだろうが…………俺が同じ状況なら『こんな事でいちいち他人の手を借りるのは嫌だ』と思うので、出来る事は極力、一人でやらせる方針にした。
「「…………」」
――――少女が粥を食べ終わったタイミングで、彼がポツリと呟く――――
「やはり、精霊の血が濃いんだな」
「??」
失われた手足の断面は綺麗に塞がっている。しかしながら何かしらの処置を施した痕跡はない。これは魔法で応急処置を行った場合に見られる状況だが、それにしては御粗末と言うか、指向性が感じられない。
魔法を行使する際に重要になるのがイメージであり、この傷痕にはソレがないのだ。これは生命の危機に瀕した状況で、エルフの本能が起こした奇跡であり…………それと同時に、限界でもあった。俺が奴隷商を訪ねるのが1日遅れていたら、全ての力を使い果たして衰弱死していただろう。
「まぁいい。食い終わったのなら……」
「…………」
――――彼が無言で歩み寄り、少女の服に手をかける。それに対して少女は相変わらず無言ではあるものの、覚悟を決めた表情で受け入れる。少女はたしかに彼の助け無くしては生きられない。しかしそれとは別に、女奴隷として男に奉仕する教えを受けており、その覚悟も出来ていた――――
「脱がすぞ」
「…………はぃ」
――――少女の美しい裸体が露わになる。手足こそ失ったままだが、小さな傷はこの2日間で完全に消えてしまった。体調も良好であり、そうなれば次に求められるのは『本来の仕事』だ――――
「下着は、さすがに買えなかった」
「……ぇ??」
――――突然、謝罪ともとれる申し訳なさそうな顔を見せる彼。その表情を見て『ついにその時が来た』と思っていた少女は唖然とする――――
「服は買えたんだが…………さすがに女性モノの下着は、なぁ」
「…………」
ひとまず素肌の上に淡い緑のローブを着せる。着せたところで、思いのほかスリットがキツくて焦ったが…………これは中間着なので、動きやすさを重視した設計なのだろう。
「下着はまた今度、試着して買おう。あと、武器や外装もな」
「………………」
思いっきりローブを見て固まっている。一応、無難なものを選んだつもりだが。
「あぁ……。俺は、奴隷にも充分な報酬を与えるつもりだ。働きによっては、それ以上のものも与えてやる」
「え? ……あ、はぃ」
なんか思っていたリアクションと違う。てっきり『奴隷には過ぎた代物です』的な事を考えていたと思ったんだが。
「もしかして、性欲処理の仕事についてか?」
「は、はぃ」
当たりだったようだ。奴隷商ってのは、そのあたりの教育はキッチリしていたりする。何せ奴隷は商品だ。だから冒険者奴隷なら事前に謳った働きが出来ないと返金や賠償騒ぎになってしまう。今回の場合は格安の欠損奴隷であり、売春奴隷とは少し扱いが違うのだが…………それでも当初は『処女の売春奴隷』として付加価値をつけて売り出す予定だったはずだ。
「お前は俺のハーレム要員"候補"として購入した」
「??」
この調子なら、コイツは迫っても拒まないだろう。しかしそれは状況からくる服従であり、状況が好転すれば俺に従う必要は無くなる。つまり、裏切る可能性があるわけで…………そんなヤツ、ハーレムに入れたいなんて思えないし、そもそも不安で一緒に寝られるかって話だ。
俺は根っからの人間不信であり、都合よく自分を過大評価するバカではない。だからちょっと窮地を救った程度で惚れられるなんて思わないし、なんなら五体満足ってだけで怪しく感じてしまう。だからハーレム要員を探すうえで最初に欠損奴隷を選んだわけで、種族や容姿、あるいは性欲処理要員としての即戦力は重要視していない。
「俺は用心深くてな、信頼できないヤツを抱くつもりは無い。だから"お前が"心から俺を認めるまで、そして"俺が"ソレを認めるまで…………お前は候補止まりで、奉仕の仕事は無いと思え」
「…………はぃ」
まぁ、手足を失い、精神的にも死にかけていた状況を救ったのだからソコソコ信頼してくれるとは思うが…………それとは別に、コイツは自力で解決できない問題を抱えており、俺ならソレを解決できる。
――――彼は打算で少女を買った。彼は非情であり、他人に与える優しさは持ち合わせていない。しかしだからこそ、優しいだけの人には出来ない事が、彼には出来るのだ――――
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