第52話 武器召喚!


 「別れの話は終わったか?」


 「……ご丁寧に待ってくれてたんだな」


 闇に包まれた中、2人が無力に横たわる。

 落ちた松明で影が地面に伸び、風が微かに吹いて髪を揺らす。静けさがただよう中、僕はその前に立って正面の魔王を睨みつけた。


 「儂は感動の話など大好きなのじゃよ……もっともそれからのバッドエンドはそれよりも大好きじゃ」


 にたぁっと蛇の口を毒の唾液を垂らしながら開け、恐怖心を煽る笑顔を向けてくる。

 その優雅で危険な微笑みが、まるで絶望を予兆し、楽しみを見出してる様だ。


 「悪役が調子に乗るなよ」


 「誰に口を聞いておる人間風情が!」


 怒りに震える魔王は、大きな口から邪悪な紫色の毒液を吹き飛ばしてきた。


 「悪いが守るように言われてるのでな」


 俺は2人を抱き抱え後方に移動する。


 ……“壁が近いな”


 「ふっ……何が“守る”じゃ、もう既に儂の身体がすぐそこまで来ておる、時期お主のマスターとそこの小娘は死にそしたらお前も消えるのじゃろう?」


 「……」


 「その毒をも効かぬ身体……だがそれが仇となったのう」


 「……」


 そう言われてみれば暗闇での視界は制限されてるので気付かなかったが息をするたび湿った空気が感じられる。

 しかし、これは水蒸気ではなく、毒のようなものが漂っているのだろう……俺でも湿ってると感じるほどだ。

 先程よりも毒が濃くなってる証拠だ。


 「一つ、言っておくことがある」


 「む?」


 「命令が果たせないなど、私にはそういった選択肢は存在しない」


 先程から頭の中で響く言葉。

 分かってる……“唱えろ”と言うんだろ?

 女神じゃない、新しい感覚……きっとこれは例の【神】だ。


 身体は勝手に片手を上げそしてゆっくりとネバーは初めてこの世界で“自分の魔法”を唱えた。


 「____【武器召喚】」


 魔法の言葉が口から零れ、身体がしずくのような光を放ち、霧の中に広がり、魔法陣が広がりながらネバーの手元に集まる様子は、まるで星々が宇宙の中で輝くような美しさがあった。


 「守るにはぴったりだ」


 そして、美しくも重厚なシンフォニーを奏でるような盾が、ネバーの腕に黄金に輝きながら具現化した。

 

 「ふん……何かと思えば、そんなちっぽけな盾で何が出来る」


 「くどいぞ、先ほどから言ってるだろ__」


 


 「__“守る”んだ」

 


 盾が優雅に光り、半透明な結界がネバーたち三人を優しく包み込む。

 先ほどまでの苦悶から解放され、二人は平穏な安息に身を委ね、息が軽くなる。


 だが魔王の驚きは毒が治った二人に対してではない__


 「な!?“見えない”!何も情報が!!貴様なにをした!?」


 先程まで何か“見えていた物”が何も見えなくなったのだ。


 「この中は俺の絶対的テリトリーだ……貴様如きでは傷ひとつつけれんぞ」


 ずっと見えてきた物が見えなくなる。

 その感覚は人間で例えるなら急に視力が無くなったような感覚だ。


 故に自身の支配力が及ばない領域に立ち入られたことで焦りを隠しきれない。


 「そんなもの!我が魔法でお前もろとも消し飛ばしてくれるわー!!」


 いつの間にかすぐそこまできていた魔王の身体から魔法陣が展開された瞬間、火・水・土・風・光・闇……五大要素の魔法攻撃がネバー達に向けて砲撃の如く次々と放たれる。


 その迫力はまさに要塞。


 まさに一国の魔王だ。


 「チリ一つ残さず消滅してしまえええええ!」



 だが、どこの物語も魔王を倒すのは【勇者】である。

 


 「…………__っ!」


 

 「どうした?終わりか?」


 砂埃が晴れ、その場から動かず、魔王を睨みつける勇者の姿が浮かび上がる。


 「くっ!!押し潰れてしまえええ!!」


 魔法が効かないと即座に判断し今までゆっくりと相手に“死の恐怖”を体験させるために進んでいた身体を急速に収縮させ力技に出る。


 「死ねえええええ!」


 

 結界の壁に当たった瞬間、ガチン!という固い音が鳴り響き、チリチリと鉄同士がすれる音と共に火花が舞った。睨みつけている勇者は完全に壁に隠れ、その姿が見えなくなった。


 「__っ!?」


 魔王の攻撃が結界に当たり、その瞬間に感じるのは確かな手応えだった……相手が見えなくても銃を撃った時に敵に当たって感じる手応えや石を投げて相手に当たった時に発生する脳信号の手応えと同じ……

 



 だがこの場合の手応えはマイナスの感覚。




 ____“この結界は破壊できない”という手応え!




 「こ、の!!!」



 ギリギリと力を入れるが逆に自分の身体が自分の力でめり込んでいく。



 バキバキと押しつぶされた鱗の音の中で誰も聞こえないがハッキリと勇者は武器召喚により使えるようになったもう一つの魔法名を呟く。







 「______【目撃封】」







 


 その瞬間、魔王は身体の異変に気付く。




 「くぉ!?な、なんじゃ!?」


 

 一点に吸い込まれていく感覚……否、吸い込まれている!


 その一点____



 ____ドームの中の倒れている少女へと!



 「ぬおおおおおぉ!?儂が!この儂がぁぁ!!」


 もはやその姿に魔王の威厳は無く、ただのデカい蛇が吸い込まれないように必死に瓦礫の上をうねうねと動きもがいている。


 「バカなァァァぁ__」


 周りを荒らすだけ荒らして最後は少女の身体へと封印されていった。


 


 「……」


 

 

 ネバーの召喚した盾は役目を終え光の粒子になって砕け散る。



 「……」




 魔王白大蛇を封印して倒したネバー達だが、クリスタルドラゴンの時と同じ……時間の経過と雨の音だけが彼の勝利を祝っていた……

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