第51話 女神の干渉から逃れた代償


 「マスター!」


 「……あ……ネバー……さん」


 「!?」


 マスターの表情は蒼白で、体の震えが見受けられた。その目には明かりが失われ苦悶の表情が浮かんでいる。


 松明を持って立ってるのがやっとみたいだ。


 「どうした!」


 「わから……ない……それより、みやを……」


 残った体力で照らすとみやが近くで倒れていた。


 「!?」


 抱き上げるとマスターと同じような表情だ……息はある。


 「大丈夫だ、生きてる……それよりここで何が?」


 「よかっ……た」


 「マスター!」


 それだけが気がかりだったのか、みやの生存を確認するとマスターは倒れた。


 「一体何が__」


 「__ほう、やはり、お前には効かなかったか」


 「!?」


 見上げると巨大な蛇の頭が暗闇の中からこちらを見下ろしている。

 その不気味な赤い瞳はまるで深淵からの視線のように感じられた。


 「魔王!」


 「昨日ぶりじゃのう、人間」


 「貴様、マスターに何をした」


 「ふん……犯罪者には死を。当然のことじゃろ」


 「!?」


 「だがそう易々と死なせんぞ、じっくりと苦しみながら死なせてやる」


 そう言っている白大蛇の口からは液が垂れ、その液体は地面に触れると蒸発し、悪臭漂うガスが舞い上がった。

 その瞬間、周囲に広がる緊張感が一気に高まり、白大蛇の存在はまるで死の予告のように感じられる。


 「……毒か」


 そうだ……こいつは蛇だ。


 毒を相手に注入し巻きつき力尽きるまで待つ。


 「殺す……」


 拳を握り込みぶん殴る体勢を取るが__


「おっと、儂を攻撃すればその娘はどうなるか、わかるな?」


そう言うと、暗闇の中でみやのお腹に紫色に光る魔法陣が浮かび上がり、恐ろしい苦痛がみやを襲った。


「っ!?!?ぎゃぁぁぁぁあああ!!いたいいたいいたいいたいたい!!!」


みやの目は見開かれ、悲痛な叫びが暗闇にこだまする中、彼女は痛みに耐えかねて地面を這いずり回り、呻き声を上げ続ける。


「ぃたいよぉ!なんで!なんでまぉぅさま!」


痛ましい叫び声が暗闇に絶望の響きを刻む。



 小学生ほどの少女の本気の叫び声。





 それを聞いて出てきた感情は____






 ____喜び。





 しかし、この喜びは少女に対してではない。



 「これで気兼ねなくお前を殺せる」


 

 相手が根っからの悪者だと言う確信。

 殺しても良い存在の認識。

 最悪みやは死んでも構わない。

 

 自分のこの力を最大限に使えて殺せるのなら。


 フフッ、どうやって殺してやろうか……悪役。


 跡形もなく粉砕し爆散させる?


 千切る?へし折る?跡形もなく吹き飛ばす?


 あぁ……“楽しみ”だ!


 冷徹な笑みを浮かべながら、主人公はその心の中に広がる暗黒の喜びに身を委ねていく。

 


 ____そんなネバーの異変に気付いたのはマンタだった。




 「だめ……だ」


 「!?」


 身体が辛く、重く。


 今にも倒れて気を失いたいはずだが必死にマンタはネバーの手を握りすがりつくように言う。


 「ネバー……さん……だめ、ですよ」


 マンタの言葉が空気に重なり、主人公の冷酷な心に微かな影を落としていた。


 何がダメか。


 どうして何がどうなってダメなのか言わないがマンタティクスは何か悪い予感を見抜いていた。


 その姿を見て自分が何か違うものになろうとしていることに気付く。


 「……………了解した」


 ネバーはそう言うと優しくマンタを地面に寝かせる。


 「命令をくれ、マスター」


 それを聞くと最後の力を振り絞りマスターは命令を下した。





 「僕達を守って!」






 「了解した、後は任せろ」





 この時のネバーの目には冷酷な光ではなく、新たな覚悟が宿っていた。

 


 

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