第49話 サイレン

 暁の静寂が大地を包みこみ、冷たい風が心を凍てつかせる。遠くの山々はまだ影に包まれており、日の出の兆しがそっと近づいている。


 「……」


 「どこへ行くんだ?」


 「っ!?」


 静かな足取りでドアに近づく少女は、指先を冷たいドアノブに触れた瞬間、どこからともなく話しかけられ、驚きと緊張からビクリと震えた。

 

 「みや」


 「……」


 少女はその声に、慎重に、そしてゆっくりと、ネバーに向き直った。


 「かぇらなぃと……」


 「どこへ?」


 マスターはまだ寝ている。昨夜は色々と考え事をしていたのだろう。僕は何日間も寝なくてもいい体になっているので、寝ずに外を警戒していたが、まさか中に居たみやが不穏な動きをするとはな……


 「まぉう様の所へ……はゃく……」


 「……」


 無理やりここから外に出ても、連れ戻されるのは理解しているのか……みやはその場でこちらを向きながら、目で訴えかけてくる。


 だが、その目的は食べられに行くということだ。


 もしかしたら、本当に食べられることが幸せなのかもしれない。僕たちがやっていることは、おせっかいなのか?


 「すまないな、マスターの頼みだからお前を帰してやれない」


 だとしても、僕はマスターを優先させる。


 「っ」


 「無理やり出ようとするなら此方も相応の処置をするだけだ」


 「…………」


 みやは何も言わずにドアから離れ、静かな足音で一歩遠ざかった。


 そのやり取りがあっての数十分後にマスターが起きてきたと同時に、彼は部屋の空気が何か変わったことに気づいた様だがみやの様子を見て察したのだろう……それ以上何か言う事はなさそうだ。


 「マスター、早いな」


 「うん……ネバーさんもみやも早いね」


 「私は寝てないからな」


 「相変わらずだね、昨日考えてみたんだけど……どっちにしろ僕達は指名手配者だからまずはほとぼりが冷めるまで隠れながら生活しよう、それからまずは農場を見つけて脅してみたり?とかどう?」


 「脅す?」


 「うん、こう……呪いを解かなければ農場を壊すぞ!って……どうかな?」


 「マスター……」


 「ダメだよね……やっぱり」


 「素晴らしいアイデアだ」


 僕は手でグッドを作り見せるとマスターはパァッと明るくなった。


 「ありがとう!じゃぁとりあえず最初は食べ物とか__」


 マスターの声が途中でかき消される様に緊急サイレンの音は、まるで千の雷鳴が一斉に轟くようで、その凄まじい轟音が市街地に響き渡った。

  

 「っ!?」


 「!?」


 「な、なに!?」


 その後、緊急サイレンの轟音が静まる中、市街地は一瞬にして静寂に包まれた。


 そしてどこからともなく鳴り響く放送。







 {これから、リセットを開始します}







 「リセット……?」


 マスターの声が不安げに漏れ、周囲に広がる静寂が、何か大きな変化を予感させた。



 

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