第38話 圧倒的な力……久しぶりに俺参上!
{…………}
全ての決着はついた。
クリスタルドラゴンの周りは静かだ。
{……所詮はただの魔人か……}
正面にはクリスタルになった魔王の姿があった……
{…………}
パキパキと体全体を鳴らしながら美しい翼を広げその場から飛び去ろうとしたが__
{?}
いつのまにか胸に刺さった“大剣”に気付いた。
{これは……}
それは最初に攻撃したライトの物でもなく、魔王の物でもない。
{……一体……!?}
クリスタルドラゴンは異様な空気を感じとり正面の下を向く。
{なんだ……お前は!}
その巨体からみたら小さな点。
だが、それ以上の何かがその者____マンタティクスから感じ取れた。
「…………俺は、お前を許さない」
手をかざすと胸に刺さっていた大剣が引き抜かれマンタティクスのもとに戻り、それを片手で受け止める。
{お前がその剣の持ち主か}
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
{…………話す価値ないな}
今まで老若男女構わず殺してきた身からすればその目を向けて来る奴らは多く、決まって考えなしに突っ込んできて死んでゆく……
「ーーーーーーーー」
クリスタルドラゴンは羽を広げいつもの様に処理をしようと適当に鱗を飛ばす__が
「……鬱陶しい」
目の前から飛んできた鱗は持っていた大剣に糸も容易く弾かれた。
剣もクリスタルになっていない。
{……ほう?}
「…………耳障りな」
{?}
「さっきから脳に響く……不協和音の様な貴様の声、耳障りだ……魔物は魔物らしく鳴いとけ」
{な!?!?}
こいつは何を言ってるんだ?
クリスタルドラゴンは生まれて初めて困惑した。
今まで自暴自棄になり戯言を言ってくる奴は多かった……だが、そんな奴らでさえ大きな力を持つ災害に対して見下す様な事は言わなかった。
{っ……}
「……」
マンタティクスに対して四方八方から風が吹き荒れる……だが____
「…………邪魔」
剣を一振りし相殺される。
{!?}
「……」
マンタティクスは何も言わずに剣を地面に刺した後、片手をクリスタルドラゴンに向ける。
「お前は絶対に……許さない……」
不意に雷鳴が轟き、漆黒の曇天どんてんから黒い光が地上に伸びてきた。
どんよりとして激しく……まるで今のマンタティクスの心を表しているかの様に__
「…………待たせましたね」
一際大きな雷が目の前に落ち、光の中から出てきたのは最強の男。
「………マスター……」
「俺たちを相手した事を後悔してやれ」
「…………了解した」
{お前!?その魔力は……もしや!}
「悪いがお前と話してる暇はない、マスターに後悔してやれ、と言われたのでな」
コキコキと腕を鳴らしながらゆっくりと歩く。
{女神様の__}
次の瞬間、山ほどある巨大な体が何かに尻尾を引っ張られ体勢を崩し顔面を地面に叩きつけた!
{!?}
巨体の胸に開けられた小さな穴。
ネバーは自らを弾丸の様にしてクリスタルドラゴンの胸を貫き尻尾を掴んだのだ。
{有り得な__}
「もう黙れ」
{!!!!!!!}
尻尾を掴んだネバーは背負い投げをしてクリスタルドラゴンを地面に打ちつけた。
「ーーーーーーー!!!?!?」
何が起こったのか理解出来ない。
自分はなぜ空を見上げているのか。
「再生するならしていいぞ、飽きるまで付き合ってやる」
「ーー!!?!?」
さらに反対方向に叩きつけられる。
「ーーーー!!」
周りに強風を発生させ鱗を飛び散らせブレスを吐き、暴れるが全く効いていない。
単純に相手を掴み叩き落とす攻撃。
今までそんな事をしてくる奴なんて居なかったのだからどう対処して良いか解らない。
「ーーーー!!」
地面が自分の鱗でクリスタルになったのも相まって叩きつけられていくごとに身体が崩れていき__
「ーーーーーーーーーーーーーーーーー」
最後はクリスタルドラゴン自ら尻尾を切りどこかへ飛んで行ってしまった。
「トカゲかよ……」
圧倒的な力で取った誰も知らない静かな勝利。
「……………」
勝利の歓声も無く、ただ時間だけが過ぎていく……
「さて、と」
ネバーはマスターの所へ……
「マスター……」
「………………」
そのままマンタティクスは何も言わずに剣をしまって森の中へ歩いて行った……
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