第36話 ここからが本番


 「あの子……想像以上に優秀ですね」


 瞬時にクリスタルドラゴンの中で一番斬りやすく脆いであろう箇所を判断し、与えられた装備を惜しみなく性能を発揮。


 「元々のスペックは高いけど仲間と装備が彼の身体についてきてなかったのかしら?」


 彼はカリスマ性があるが、仲間を第一に考える癖がある。

 その考えは間違ってないのだが……


 この状況は自分よりも格上の私の傘下で動くことによってその心配がない分、伸び伸びと動けてるってことですかね。


 「『ブラックライン』」


 これでこのドラゴンの翼を破壊するのは2回目……つまり__


 「厄介ですね……」


 クリスタルドラゴンはあの巨体で再生能力があると言う事。


 「その可能性はライトさんに伝えてあるのでわかってると思いますが」


 そのままライトさんは体勢を整えて駆け上がっていき__


 「…………やりますね」


 そう言って動き出す。


 「正直驚きました、まさかあの剣の最大スペックを引き出すとは」


 いや、たまたま全力の魔力がマッチしたと言うことでしょうか?


 「私が使うと魔力が高すぎて壊れちゃうんですよね」

 

 しかし、あの剣をあそこまで使えると言うことは基本スペックは国の四天王クラスに相当してると言うこと……視てる限りではそんな感じじゃ無かったのですが……


 「いや……“視ていなかった部分”がありますね……」


 ネバーさんと出会ってからのライトさん。

 会ってから初めての依頼がこの討伐ですからね……あの人に仲間と認められるだけでパワーアップするのですかね。


 「それしか考えられませんね」


 落ちていくライトさんをお姫様抱っこして持っていた魔力回復の瓶を口に入れる。


 「う、ぐ……」


 「良くやってくれました、少し休んでてください」


 落ちていくクリスタルドラゴンの大きな首を踏み台に大きく跳躍し離れた所の地面にライトさんを置く。


程なくしてクリスタルドラゴンの首が落ちて地面の砂を巻き上げる。


 「本当に良くやりました」


 ライトさんの仕事は素晴らしい情報を与えてくれた。

 

 1つは懸念していた超再生能力……これを首を切断するという事で倒せるかどうかの見極め。

 

 2つ目は“近距離魔法”での攻撃が有効な事。

 あの強靭な鱗を通す剣はかなり少ない……しかも攻撃が通った所で__


 これは2つ目の派生の3つ目、この魔物は肉や臓器を持っていない。 

 落ちてくる首の斬り口を見ると綺麗なクリスタルだ……よって物理攻撃が通ったところで鱗の下は結局クリスタル。

 

 __それも遠距離の魔法は威力を弱める特殊な物。


 「そりゃそうですよね」


 クリスタルドラゴンの討伐はどこの国でも行われるが今まで撃退した実績はない。

 

 その実績のせいで討伐に行ってもみんな自分の身を案じながらの攻撃になるので遠くからの遠距離魔法を使用する。



 そして四つ目……


 「ここからが本番という事ですね」


 地面に落ちたクリスタルドラゴンの頭はスライムの様に液体になり身体に貼り付くとみるみるうちに頭が再生した。


 四つ目の情報は“首を斬っても死なない事”


 クリスタルドラゴンは再生した翼を広げ、鱗が周りに飛び散る。


 「『マジックシールド』__っ!」


 自分の元に飛んできた鱗を魔力の盾で塞ぐが当たった瞬間に侵食しクリスタルに変換され地面に落ちた。


 「なら!『ガイアウォール』!」


 今度は地面が盛り上がり壁となる。


 先程と同様にクリスタルに変換されるが形はそのままなので結果的にクリスタルの盾となり2人を守った。


 「魔法でも物質にして変換するのですか」


 ライトさんが動ける様になるのはそろそろでしょう……後は……


 今起きた摩訶不思議現象に驚くより先に“最重要人物”を視る。


 「どうやら、まだ寝てる様ですね」


 マンタはライトが手放した瞬間から視ていたがライトと違い装備を上手く扱えて無かった為、そのまま勢いよく遠くへ飛ばされ崖の壁に当たって気絶し、地面で寝ている。


 「この鱗がたまたま当たるなんて最悪の事態にはならなくて良かったです」


 「……」


 「起きましたね」


 「えぇ……くっ」


 ライトは立ち上がるがフラフラだ。


 「『ガイアウォール』!!!」


 2人の周りに土のドームを形成する。

 

 「一度しか言いません、聞いてください」


 「はい」


 「私はこれからアナタがくれた情報を基にクリスタルドラゴンと対峙します、あなたはガイアウォールを解いた瞬間に7時の方向に向かって走っていってください」


 「はい!」


 ライトさんは素晴らしい功績を残してくれました。

 ですがその身体ではもう足手纏いです……と言わなくても解ってるのでしょう。

 走っていった先に誰がいるのかも検討がついてるのでしょうね……

 

 「話が早くて助かります、では……行きますよ!」


 ガイアウォールを解いた瞬間各々で走り出すが__


 「っ……風!」


 先程まで無かった吹き荒れる突風。

 さらには鱗が飛びちった後なので周りの景色も一面クリスタルに変貌していた。


 「ライトさんを見ている暇はありません」


 全ての能力をクリスタルドラゴンに集中する。


 「ーーーーーーー!!」


 「……っ……確かに……これは“災害”ですね」


 クリスタルドラゴンが私を確認すると周りの風は全て私の方向へ向けられた。

 

 風を利用する事は出来ませんね……


 どちらに動いても向かい風になる。


 「!?、まさか!」


 クリスタルドラゴンの羽を広げる予備動作!この状況でアレを!?


 「ーーーーー!!」


 再びクリスタルの鱗が飛び散るが先程と違い、全てが風に乗って標的の私の方に向かってくる!


 ……本当に……面倒ですね!!!!


 「『マジックシールド』!」


 正面の1つのルートにマジックシールドを配置すると狙い通りクリスタルに変換される……だがそれを逆手にとり魔力の盾が物質になったので足で蹴り飛ばした。


 「魔法までもクリスタルに変換するアナタの鱗、確かに強力ですが利用させて頂きます!」


 正面以外の方向はガイアウォールで対処__


 「…………?」


 風が、止んだ?


 「{ほほう、我の攻撃を逆手に取るとは……面白い事をするではないか}」


 「!?!!!!!?!」


 頭に響く言葉!

 まさか!?


 「{どうした?}」


 「…………少しだけ、予想はしていました」


 「{ふむ?何がだ?}」


 「あなた……知性があるんですね」


 「{当たり前だ、我はクリスタルドラゴン、お前達より進化した種族だぞ}」

 

 「ならば聞きたいことが山ほどあります」

 

 「{我はなんでも知っている、良いだろう冥土の土産として一つだけ答えてやろう}」


 この感じなら本当に一つだけ答えて他は無視するつもりだろう。

 ならば1番聞きたい事を聞き出す。


 








 「あなたの目的は何ですか」







 「{……}」


 クリスタルドラゴンが黙るが、数十秒経つと言葉が伝わってきた。



 「{我、終わりの神に作られし者、全ての生命を終わらせる}」


 

 「…………………ハハ」


 「{?}」


 「ハハハハハハハハハ!そうですか!全ての生命を!」


 なんて簡潔な答えですか。


 私の運とかネバーさんの事とかどこかの国の差し金とか色々と考えて考えて考えて考えて居ましたが!


 結局は“災害”!


 全ての生命を終わらせるのに場所や順番など関係ない。

 行きたい時に行って誰かいたら殺すだけ。



 誰ですか災害なんて異名を付けたのは……


 「ピッタリじゃないですか」


 「{では我の願いも聞いてもらおうか}」


 「私がアナタに?」


 「{全ての力を使った一撃を我に放て}」


 「はい?」


 「{今まで幾度となく殺してきたがお前ほどの者を相手するのは初めてだ、力比べをして我を楽しませろ}」


 「そうですか、お褒めに預かり光栄です、では…………本気で行くぞ、災害」


 

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