激動の一日

★★★


 そもそもなんでこんな事になったのかというと、全部ケンタ君のせいなのだ。


 ケンタ君は私の好きな人……好きだった男の子のことだ。

 爽やかで面白くてスポーツもできる、みんなの人気者。

 そんなケンタ君と仲良くなったのは、中学二年の九月くらいのことだった。


 それまではほとんど話したこともなかったけれど、夏休み後の席替えで隣になってからたくさん話すようになった。

 ケンタ君は思っていたよりも親しみやすくて、気がついた時には好きになっていた。


 ときどき、放課後に二人で遊んだりもした。

 その度に私は、オシャレを研究した。

 少しでも可愛く見られたかったからだ。


「今日の服、なんかいい感じだね」


 ケンタ君はいつもそうやって褒めてくれた。

 可愛いと思われたくて頑張ったのに、何だか照れくさくて心の奥がくすぐったくなった。

 他の女の子のことも同じ調子で褒めていたのは知っていたけれど、私は気にしないふりをしていた。


 そうして月日は流れ、中学三年の七月七日。

 私は今日、思い切ってケンタ君に告白したのだ。


「受験勉強もあるけど、ケンタ君と一緒に夏休みを過ごしたい!」


 そんな思いでいっぱいだった。

 楽しくて、ワクワクして、ドキドキのいっぱいつまった夏休みが待っているはずだった。


 それなのに――。


「ごめん……オレ、好きなヤツいるんだ」


 放課後の屋上でケンタ君の返事を聞いて、私の頭の中は真っ白になってしまった。


「えっ……」

「ごめん」


 何がなんだかよく分からなくなった私は、逃げるようにして教室へ戻り、カバンを取ってまっすぐ家に帰った。

 今思えば、部活がなくてよかった。


 家に着いた私は当然、大泣きした。

 帰り道にずっとこらえていた分、涙が止まらなかった。


「どうしたの? 佳織」


 お母さんは心配そうに声をかけてくれたけれど、私は泣いている理由を話せなかった。

 悔しくて、恥ずかしくて、ワケがわからなくて……とにかく話したくなかったのだ。


「もう……何もかもイヤだ!」


 こうしてバス停への猛ダッシュ劇が始まったのである。


★★★


 ――どれくらい走ったんだろう。

 呼吸はすっかり乱れて上手に息を吸うことができない。


「あっ、バス停……」


 見覚えのあるベンチと屋根。そして時刻表。

 私の目指していたバス停はすぐ目の前にあった。


「バスの時間は……まだ大丈夫みたい」


 夜とはいっても夜中ではないから、まだまだバスは運行している。


「バスが来るまで……ひと休みしよ……」


 今日一日で色々あったからなのか、それとも猛ダッシュしたからなのか、どっと疲れが押し寄せてきた。


 抗えない眠気におそわれた私は、ベンチに座って少しのあいだ目を閉じることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る