最寄りのバス停発、未来の旦那さん行。

花沢祐介

プロローグ

「どうして……どうしてなの」


 私は止まらない涙を止める気にはならなかった。

 いっそのこと、涙が出なくなるまで泣いてやる。


「もう……何もかもイヤだ!」


 居ても立っても居られなくなった私は家の外に飛び出した。

 あたりは真っ暗で、私の気持ちなんか知らないみたいに静かな夜だった。


「わーーーーん」


 子どもみたいだな、と思いながらそのまま駆け出す。

 まだ中学生だから、本当に子どもなんだけれど。


「佳織! どこに行くの!」


 お母さんが私を引き留めようと、大きな声で叫んでいる。

 でも私は振り向かない。私はバスに乗って知らない町へ行くんだ。


「お父さん! 佳織が……!」


 お母さんの声が遠ざかっていく。お父さんを呼びに家の中へ戻ったみたいだ。

 ここで一気に走ってしまえば、もう誰も私を止められない。


 私は最寄りのバス停を目指して、一心不乱に走り続けた――。

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