57 今様


今回は「今様いまよう」です。平安末期に流行したスタイルの歌で、『梁塵秘抄』に採録されていることで有名です。それより百数十年も遡った清少納言・紫式部の時代にも既に今様はあったようで、『枕草子』『紫式部日記』でも言及されています。

「古様」に対する「今様」ということで、「現代風の歌」という意味で呼ばれたのがもとのようですね。

あ、白拍子(静御前が有名)は今様に合わせて舞ったそうです。


リズムは、七・五を4回繰り返すのが基本形のようです。(例外もあり)

いかに「今風(平安時代当時の…)」と言ったところでけっきょく七と五なので、伝統的なリズムから外れていないわけです。日本人が愛してやまないこのリズム、どれだけ強固にDNAに刻みこまれているんだ……と思ってしまいますね。


雅な歌もあるようですが、私のなかでは、庶民的なセンスの歌という印象です。……と言うとなんだか下に見るように聞こえるかもしれませんが、たくましい生活感覚に根ざした歌は、ときに世の真実をするどくえぐったり、哀切が身に迫ったりと、けっしてばかにしたものではありません。

世への批判精神が垣間見えることもあり、ちょっとラップに通じるのかもと思ったりもします。




 ころと転がる 玉のよに

 どこなとねと 蹴らるれば

 夢のよなな さやな世に

 あだうたたに いざさらば


 らばと去らば 行きゆきて

 雪と紅葉もみじと 木洩れ日の

 里に籠れる 春と秋

 飽きてあくたの 世に戻る




第1聯は、ラップを意識して、脚韻にしてみました。

(よに-世に、れば-らば)

第2聯は、前の句の音を、次の句で引き継ぐようにしてみました。漢詩にも和歌にも見られる趣向ですが、現代の歌詞にもそんなのがちらほらあるので、きっと普遍的な魅力があるんでしょうね。ただしあんまり技巧に走ると、かえって興が削がれる気がします。

(行きゆきて-雪、木洩れ日-籠れる、秋-飽きて)



つくってみたものの、正直なところ今様の魅力をモノにできた気がしません――なんて言うと読んでくださる方に失礼なお話なのですが――ともかくこれを読んで「いまいち」と思われたとしても、それは私の拙さゆえであって、今様のとがではないとお考えください。


軽妙な即興やシャレと、それだけでない情感と、両方を併せもった歌ができるといいなと思います。今回は前者に偏って、後者はなおざりにしてしまいました。

今様に取り組むのは、手頃な文章修行(とおやじギャグの練習)になるかもしれませんね。


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