58 長歌


久しぶりに、長歌にもチャレンジです。

といってもあんまり肩肘張らず、現代文で、七・五で言葉をつらねていくうち、勝手に長歌ができあがるという感じで。




<長歌>

焼け野原 荒れ野すすき野 風の音

焼けず残った あばら家の どこにいるのか 虫の声

ひとは声なく 影もなく そこに幼い 姉弟きょうだい

ふたり残されて おりました


屋根のやぶれた すきまから 夜は見あげる 月の影

壁のくずれた すきまから 昼は舞いこむ 雪のこな

月のかけらは 食べられる? おととは姉に 聞きました

月のかわりに 雪のを 姉はおととに あげました


厳しい苦しい ときでした

親をなくした 子らだとて つねの世ならば 手をのべる

はずの心の ひとだとて そのときばかりは 目をそむけ

背には赤子と 両手には やはり幼い 兄弟の

ひもじと泣くのを しかりつけ 泣く力ない 姉弟の

弱り立てない 姉弟の すがるよな目から 目をそむけ

ごめんと心で あやまって 逃げるよに立ち 去りました


夜空の月は まんまるで とてもうまそに 見えました

ほんとは月は 姉弟に 我が身をくだいて あげたいと

ちいさな子らに あげたいと かなわぬ願いに 身をじて

かわりになみだを ひとしずく 冬の荒れ野に 落しました


虫がうたって おりました 冬だというのに 虫たちは

力のかぎり のどからし 歌をうたって おりました

そこへしずくは 落ちました しずくは歌と あわさって

ちいさなふたりの たましいを 見守るように ひかりました

歌とひかりは あばら家に やせたふたりを つつむよに

満ちたのでした 満ちたのでした



<反歌>

 ひさかたの月冴えわたる冬の夜に

  だれのためにかさき虫鳴く




長歌をつくろうとすると、なんだか物語っぽいのができあがってしまいます。万葉集に採録されている長歌も、叙事詩というほどではないにしても、物語性のある歌が多いような気がします。例えばホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』なんかがそうであるように、古い時代においては物語と詩とは、そもそも不可分だったのかもしれません。



同じ言葉をくりかえしたり、似た表現を重ねたりするのも、長歌らしいところだと思います……が、それはなにも長歌に限らないのかもしれませんね。


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