48 自由詩


 きみは夜明けに歌を歌う。


 歌に耳傾けるのはわたしだけ。

 雨だれが窓を叩く。

 窓に頬をぺたりとつけて、わたしは耳を澄ませる。

 雨だれが窓を叩く。途切れなく。

 きみは歌う。歌いつづける。声がれるまで。

 歌の代わりに血が、喉からほとばしる。

 血が夜を染める。罪を洗うように。

 世にありとある罪を洗いながすように。


 あかく染まった空は朝を迎える。

 きみの血は涸れる。

 そのとき言葉は意味をうしなう。

 あらゆる装飾はえ去り、

 ただ叫びだけが残る。




だれにも個性というものはあって、それは隠れようなく作品にあらわれるのだと思います。読者の側にももちろん個性があって、作品・作者の好き嫌いというのは、優劣よりも両者の個性が響き合うか否か、が決め手になるような気がします。


だから文章に個性を出すのは悪いことではないし、そもそも出さずにいることはできないと思うのですが、一方で、その個性を破っていくような試みも忘れてはいけないのだと思います。そんな不断の足掻きのすえに、新たな地平を開く……こともあるかもしれない。あってほしい、と願っています。


ということで。

この詩は、あらたな地平を開こうとして開きそこねて、予定外のところに着地した詩です。

今回は、辛酸をめたひとが世界をあたたかく見守るような、静かな想いを綴ろう、と始めたのでした。なのに、そんなしっとりした詩になるはずが、言葉をつらねて書いては消して……としていくうち、けっきょくは情念の炎が蒼く燃えあがる詩になってしまいました。

どこでどうまちがったんでしょうね……

これも個性といえば個性なのか。



さて、この出来上がった詩。

「わたし」から「きみ」へのラブレターのようなものなのかもしれません。「わたしはきみのそばにいるよ」とうったえかけるメッセージ。ただ残念ながら、その想いが「きみ」にとどくことはないのかも。

ふたりの声が交差することなく、地に落ちむなしく消えていくのだとすれば、せめて叫びが血痕となって残ればいいなと思います。


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