46 俳句(春)


 春闌けて鳶啼くなり残り松


<読み>

はるたけて とんびなくなり のこりまつ




鳶は季語にならないようです。言われてみれば、年じゅう飛んでいるし、啼いている。(海の近くに住んでいるせいか、とくに私には身近な鳥です)


鷹の仲間ではあるのですが、鷹ほどカッコいいイメージはない。「トンビがタカを産む」の言葉でも感じられる通り、庶民的で親しみやすく、わるく言えば……有り難みに欠ける。

啼く声にも凄みというようなものは感じず、哀切と言うよりは、うららかな日常を寿ことほぐ声のような気がします。

「トンビに油揚あぶらげ」という言葉もあるので、ちょっと油断ならない、迷惑な鳥という印象もあったのでしょうか。その点、鴉にちかいのかもしれませんね。


ところで鳶に鴉といえば与謝蕪村の絵に『鳶・鴉図』という対幅があって、鳶は風雨に、鴉は雪に耐える姿が描かれています。ともに、憧憬や称賛の対象になることはあまりなく、むしろ軽んじられたり疎ましがられたりする鳥の、哀愁や矜持を感じて私は好きなのですが、蕪村自身がなにを思っていたかはわかりません。鳶を詠んだ彼の句があるのかどうかも。


「残り松」は、開発のために大半の樹々が切り倒されてしまったあとの荒れ地にぽつんと立つ松を描きました。

もしかしたら、東日本の震災の際に奇蹟的に生き残った松を思い浮かべた方もいらっしゃるかもしれません。そうだとすればまたちがった物語で、それはそれでありだなあと思います。


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