40 俳句(春)


 人につかれ花積む檻に虎と寐ぬ


<読み>

ひとにつかれ はなつむおりに とらといぬ




せっかくの花のさかりを、素直にめでたく歌えばいいものを……と思わないでもないですが。

春はめでたいばかりではない、というのも一面の真実です。

気の触れやすい季節でもあるように思います。

空模様の不吉な季節でもあります。

花でいえば、桜の下には死体が埋まっていると歌ったひともありました。


そんな春の裏面の系譜に連なるように見えるこの句ですが、そう見るのがほんとうに正鵠を射ているのでしょうか。


これを不吉や、狂気や、悪夢と片づけるのが果たして正しいのか?

そうとは限らない、と私は思います。


この世と折り合いをつけることの不得手だったひとには、

心のやすらぐ涅槃であるのかもしれません。




ところでこの句、漢字を変えるとまったく違う世界が見えてきます。

 人に衝かれ、花摘む折りに虎と


「つかれ」はほかにも色んな字が当てられるので、いろいろ試して、どんな情景があらわれるか想像してみるのも面白いかもしれません。


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