10 自由詩


 老いたる漁船はコンクリイトにその身を横づけたり

 そは永久とこしえの睡りにはあらず

 そは仮初かりそめの、次なる出立いでたちまでの束の間の休息たり

 そは明日か、七日なぬかの先か、あるはまたひと月も先のことか

 老いたる漁船は黙して待てり

 たれか知らんの老船の、すでに幾日いくか待ちもうけたるかを

 幾日たろうと船はただ黙して待てり


 秋の一日いちじつ、海は鏡の如き凪となれり

 老いたる漁船は恍惚の幻に出漁を夢見れり

 そは大漁の夢なりき

 漁人いさりびとはしるや甲板は堅くこらえり

 漁網を引き揚ぐるやウィンチの錆は叫べり

 逆濤さかなみにたち向かうや老骨は軋めり

 老いたる漁船の戦いはわらじ

 岸壁にやすらえども畢わらじ

 潮風に錆びれども畢わらじ

 そは悪夢たりしや

 あるは、その夢はさきくありしや





最近お気に入りのジョギングコースは海沿いを巡るコースで、漁港が次々あらわれます。ひと仕事おえてくつろぐ漁師に、繋留された漁船。漁船はどれもこれも年季が入っています。



最初の一行が浮かんだときに、これは擬古文調で通そうと決めました。


なぜ擬古文調にしたのかというと、身も蓋もなく言ってしまうとそれはもう、「雰囲気!」です。

巫山戯ているわけでも、卑下しているわけでもありません。

その情景、情感を表すのに最も相応しい表現を目指すのが物書きの使命ならば、雰囲気づくりにも当然注意を払うべきだと思うのです。

私が物語を書くたびに文体を変えるのは、ひとつには文章修行のためでもありますが、ひとつには、その物語に合った雰囲気をつくるためでもあります。


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